氷の楔

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 それから20〜30分くらい町から離れるように山の方へ向かった。 緑が段々と濃くなって、黄金色に輝いた田んぼや収穫を待ちわびている野菜達の畑がすぐ近くで私を迎えてくれていた。 「相変わらず、此処には何もないね。」  そう呟いていた母は、道中の運転手との世間話にもあまり気のない素振りで多くを語ろうとはしなかった。  そしてタクシーが一軒の家の前に停まった。 家の前で何か作業をしている夫婦が驚きの表情でこちらを見ている。 「お前、今まで何の連絡もなく何処で何やってたんだ!」  タクシーから降りるやいなや、夫婦の夫と思われる男性が凄まじい剣幕で詰め寄ってきた。 「まぁまぁお父さん、せっかく美里が帰ってきたんだから。 一緒にいる子も疲れただろう? とりあえず中で休みなさい。」 「お母さん、勘違いしないで。 帰って来たわけじゃないから。 この子を置いたらすぐ出てくよ。」 「あんた…何言ってるんだい!? この子を置いたらって…この子はあんたの子じゃないのかい??」  不穏な空気で言い合いをする夫婦と母。 すると母は屈んで私の頬に両手を当て、じっと目を見つめてこう言った。 「菫、お母さんちょっと出かけてくるから、この人達の言う事聞いて良い子で待ってるんだよ。」 「うん、わかった!」  そう言い残すと足速に母はまたタクシーに乗り込んでいった。 「お前!!一体何考えてんだ!! 母親がこんな事していいわけがっ…!!」 「出して下さい。早く!!」  夫婦の静止を振り切ってタクシーが緑の中に消えてゆく。 母は少し出かけてくると言った。 私に良い子で待ってるようにと言った。 そして5年が過ぎたが母は帰って来なかった。 私は母に捨てられた可哀想な子供になっていた。
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