氷の楔

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「菫!お弁当持ったかい?」 「うん、大丈夫!行ってきます!」  家から出ると外の空気の冷たさに身が引き締まる。 茨城県笠間市、11月下旬、秋の紅葉も終わり祖父母に引き取られてから6度目冬が訪れようとしていた。 「菫はもう学校行ったか?」 「えぇ、さっき出て行ったよ。 それより美里の事は…」 「黙ってろ。あいつに母親はいねぇ。 今更そんな事教えても余計あいつを苦しめるだけだ。」 「…そうね。今はただあの子が毎日笑ってくれてればそれでいい。」  自転車で走る朝の通学路。 友達と待ち合わせて学校へ向かう。 昨日のテレビや今日の授業、部活、毎日他愛もない話に花を咲かせて、それが楽しくて私は笑っている。 親がいない事なんて私も皆もどうでもよくて、目の前の生活が全てでこれからの未来に胸をときめかせていた。  だがそれでも、心の中に抱えた僅かなしこりを手放す事ができずにいた。 そしてそれから程なくして、そのしこりと向き合う事になろうとはその時はまだ知る由もなかった。
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