氷の楔

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 その日はいつもより早く部活が終わり、私は下校中に冷えた体を一刻も早く家の中で温めようと玄関の引き戸に手を伸ばした。 「お……いま……なん……!!」  中から怒鳴り声が聞こえる。 私は音が立たないようにゆっくりと引き戸を少しだけ開けた。 「菫の気持ちも考えねぇで好き勝手やってきた挙げ句金をよこせだ!? ふざけるのもいい加減にしろ!!」  祖父の怒号が壁を伝ってビリビリと家中に響き渡る。 台詞の内容から察するに相手はもしかしたら母なのかもしれない。 「お父さん、落ち着いて。 せっかく美里が久しぶりに連絡してきたんだから、話だけでも聞いてやりましょう。」 「お前は黙ってろっ!! 俺達が稼いだ金は菫の為に使うんだ!! もう二度と電話なんかしてくんなっ!!」 ガチャッ!!  間に入った祖母の静止も虚しく電話は一方的に切られてしまった。 私はまたゆっくりと引き戸を閉めてから少し間を置いて、今度は勢いよく開けていつもより大きく声を張った。 「ただいまー!!」 「んっ?あ、あぁ、おかえり、菫。」  祖父はついさっきまで激昂していたせいか、上手く気持ちの切り替えができていない様子だった。 「今日はいつもより早かったね。 もう少ししたらご飯できるから先にお風呂入っちゃいなさい。」  そんな祖父をフォローするようにすかさず祖母が私に話しかける。 「うん、わかったー。」  私は何事も無かったふりをして、祖母の言う通り部屋に荷物を置いて入浴の準備をした。
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