氷の楔

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 その週の土曜日に朝から部活の練習があって帰りは遅くなると嘘を付いて家を出た。 バスで駅まで向かい、東京行きの切符を買って電車に乗った。  母は今も東京にいる。 昔一緒に住んでいたあのアパートとは別の場所だろうけど、やはり東京と聞くだけで色々と思うところがあるのは事実だ。  きっと祖母は祖父に内緒で母と連絡を取り合っていたのかもしれない。 この住所に直接現金書留か何かでお金を送っていたのかもしれない。 この前は運悪く祖父が電話に出てしまったせいで口論になったのかもしれない。  電車に乗っている最中たくさんのかもしれないを想像していた。 結局勢いで出てきてしまったけれど会えないかもしれない。 突然訪ねていくのだから寧ろその方が確率は高い。 そもそも私は母に会って何がしたいのだろう? やっぱり会わない方が良いのかもしれない。 ネガティブな思考が頭の中を巡り不安な気持ちが膨れ上がっていく。  そう考えている内に電車は東京の乗換駅に差し掛かっていた。 ここまで来たのならもう引き返す訳にはいかない。 どんな結果になろうとも母に会わなくては。 私は決意を新たに東京の駅に降り立った。
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