氷の楔

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 東京に着いてから途中何度か迷う事はあったが、スマートフォンのナビ機能を駆使してなんとか昼過ぎ頃に目的の住所に辿り着く事ができた。  そこには決して綺麗ではないが何処か懐かしい雰囲気を漂わせているアパートがあった。 (うん、やっぱり知らないとこだ。)  昔一緒に住んでいたあのアパートは今はもう何処にあるか分からない。 感傷に浸る自分を置き去りにするようにドアをノックした。 コン、コン、コン……。  何回か繰り返してみたが反応は無く、人気も感じられなかった。 ならば帰ってくるまで少し待ってみる事にした。 私は部屋の扉の前で座り込み、祖母に持たされた弁当を広げて食べ始めた。  それから一時間くらい経って満腹感と移動の疲れでウトウトしていると、遠くの方から男女の話し声が聞こえてきた。 私はハッとして立ち上がり声のする方に体を向けた。 声は段々とこちらに近付いてくる、と同時に私の動悸が激しくなってくる。 私は緊張のあまり固唾を飲んだ。 そしていよいよ声の主が姿を現した。  黒のショートカットに派手な化粧と服装の女性。そして隣には同じくらいの年齢の男性がいた。 あれから五年、やや老けてはいたが間違いなく母だった。
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