氷の楔

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 子供は生まれてくる場所を選べない。 戦争中で貧しく、医療や教育が整っていない国に産まれた子供。  親が子供に関心が無く、毎日ネグレクトや暴力による虐待を受けて生活している子供。  世界中の可哀想な子供達。 その子供達に比べれば私は幸せだと思うし、実際自分が不幸だと思った事はない。    お金は無く父もいなかったけれど母がいてくれた。 時々ヒステリックに怒鳴ったり叩いたりしてきた事もあったが、決まってその後はとても優しくしてくれた。 だから私は母に愛されている、そう信じていた。 母がいてくれれば他には何もいらないかった。 東京の狭いアパートの中で私は幸せだった。  しかし、そんな私達の生活はいつまでも続きはしなかった。  あれは私が8歳の時の事。 もう9月の末だというのに秋の気配はなく、茹だるような暑さで太陽の光がジリジリと私の肌を突き刺していたのを今でもよく覚えている。 「今日は久しぶりにお出かけしよっか。」  その日行き先も告げずに母は突然私を外に連れ出した。
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