現在と過去

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「ゲホゲホ、ゴホッ」 「済まない、このハンカチを使いたまえ」 「いえ、結構です」 私は袖口で豪快に口元を拭くと、 姿勢を正し、ドクターに詰問する。 「私が軍の研究所に卵子を提供したのは 確か20歳の頃です。 それもこの最前線と違う別大陸にある 本国ので採取されて 保管されたはずです。 それが何故、この大陸のろくな研究機関も持たない この国で私の子供が存在するのですか」 「スパイだよ。 我が国の軍隊が志願制なのは知っているよね。 そして、どんな訳アリでも志願して何年かすれば 我が国の市民権を得られる。 その中には何も前線にでる兵士ばかりだけではない。 科学者も存在する。 その中の一人が君の卵子を持ち出した」 「随分古典的な手口ですね」 「卵子と言っても21世紀前半とは違う。 簡単に言えば、本の栞と言えば分かるだろうか。 ほら、紙の本で読んだ位置を分かるようにする 小さな長方形の紙だよ。」 「ポストイットと言った方が分かりやすいですね。 それでその栞と卵子の関係はどうなっているのですか」 「その栞はそうだな、米粒程の大きさだ。 その上に君の卵子が組み込まれている。 まぁ、そういう訳で君の卵子を50個採取する事になったのだから」 私は黙ってドクターの話を聞いていた。
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