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ドクターは視線を私に合わせた。
そこには一片の感情も無かった。
「この国の隣国とその友好国だよ。
君の卵子は隣国でコピーされて
受精されて子供が誕生した」
「その父親達は?」
「この国の、我々と敵対する部族の人間だよ。
有力部族の間で分け与えられたと聞いている。
彼らの義理の両親の顔に似せられてね」
「その生き残った子はどうして
この基地へ逃げ込んだのですか」
「君を見つけるための生餌だ。
そう、彼らは君の存在を知らない。
だが、どこで入手したのか、
この基地にいるのは知っている。
君という母親と会わせて君の治療後の遺伝子を
手に入れる。
すでにマスコミを使ってこの件を
公表させようとしている。
我々も、ダミーの母親を用意して
その少年と会わせる手はずを整えている。
君にはさりげなく栄転してもらう。
おめでとう、大尉」
「そうですか。それが穏当な解決策でしょう。
私にも夫と私が産んだ子供たちがいます。
私は彼らを守りたい。
そして、その逃げ込んだ子供も会わない事で
守られる事になるでしょう。
それが母親として私ができる最善の方法でしょうね」
するとドクターが少し悲しそうな顔をした。
「済まないね」
「いえ、こういう事態も起きる可能性はあります。
そして起きた事をとやかく言っても仕方ありません。
それでいつ異動になるのでしょうか」
「今すぐ。東部地区の基地で教官をしばらくして
ほとぼりが冷めたらまた前線へ行けるよ」
「了解しました。すぐに用意します」
私は中隊長室を辞した。
そして廊下を歩いていると突然扉が開いた。
「マルティーシュ、大人しくしなさい!」
その声と共に勢いよく少年が出てきた。
そして私はその子とぶつかった。
赤い瞳をしたその子と。
お互い無言だった。
私はさりげなく軍帽を下げて、
少年を追いかけてきた医務官にに引き渡した。
私は自室へ入って、鏡に向かって
カラーコンタクトを溶かした。
一年ぶりに見た自分の本来の瞳をじっと見た。
そしてスマホの中の家族の映像をじっと見る。
「mom、早く帰って来てね。待ってるよ」
彼らの瞳は夫の瞳にそっくりだった。
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