序章

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序章

それは晴れた空だった。 中流階級より下、下層階級より上の 私の一家が暮らすアパートの入り口。 その入り口を振り返ると、父母と老いた祖母が泣いていた。 年下の弟は訳も分からず母の顔を見上げている。 私の国は、軍への入隊は志願制の国だ。 男女平等の国で女性が入隊するのは珍しくない。 だが、いくら男女平等でも やはり男女格差は存在する。 女性が最前線戦闘員へ進むのは難しい。 だから私はある道を選んだ。 軍と関係の深いとある研究所。 私はそこで生まれ変わるのだ。 人にこんな事を話せばおかしいと思われる。 だから誰にも言わない。 みんな私が看護兵や衛生兵などの道に進んで 現場へ志願するのだと思っている。 それでいい。 私はおかしいのだから。 私は振り返って家族に手を振った。 そして振り終えると前へ向いて 迎えの車に乗り込んだ。 16歳。 ルーシー・メルトレイン それが私の新しい名前だった。
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