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「いつもありがとう、ケイト」
「お嬢様のお手伝いができることが何よりでございます」
シャルロットが取り持つ縁は、社交界でもよく知られている。
それもいつの間にかそうなってしまっただけで、シャルロットにとっては自分ができることをしているに過ぎないが、おせっかい嬢というあだ名がつくほどには有名なのだ。
「時間までに少し余裕ができましたね。お茶をお持ちしましょうか」
「何かつまんでおけばよかったわねぇ」
美しいドレスの裾を整えながら片手を頬に添えてしみじみと呟かれると、ケイトは笑顔を装いながらも目を細めるしかない。
夜会になれば、確かにゲストをもてなすことで忙しくなるのもわかるが、なによりも食欲を優先されてはたまらない。
とはいえ、シャルロットに甘いのはこの家の使用人の誰もが同じだ。甘いものは控えるように忠告するよりも次に出てくる言葉は限られてくる。
「……クッキーでもお持ちしましょうか?」
「本当?いいかしら」
「もちろんでございます」
シャルロットがもう少しスマートになれば印象もだいぶ変わるはず。
使用人たちはそう思っていて、シャルロットをスリムにという隠れた計画もあったが、食べること、とりわけ甘いものが大好きとくれば、その計画がどうなるか結末は見えている。
「そういえば、今日の夜はどんなデザートを用意したんだったかしら」
「フォンダンショコラでございます」
それを聞いた瞬間、ぱぁっとシャルロットの顔が明るくなる。この顔を見てしまうと、どうしても、お控えなさいませ、という言葉が出てこなくなるのだ。
「それはぜひ試すべきよね。お願いしていいかしら?」
主が喜ぶことは何より嬉しい。それがついつい、シャルロットを甘やかしてしまう。
ほんの少しの罪悪感と愛すべきシャルロットを喜ばせたいという使命感を抱えたケイトが部屋を出てから、シャルロットは部屋の中を満足げに見回した。
いつも花が途切れることがないようにと使用人たちの心配りと愛情に包まれた部屋は、白とピンクで整えられていて、どれもこれもシャルロットの好きなものでできている。
この屋敷のすべてが大好きだった。
「人生には少しだけおいしいものがあればそれだけで素敵だと思うの」
ひとり呟いて、残していたバラを髪にさした。
家を取り仕切ることは好きだ。人と話すことも大好きだし、その人の好みや様々なことを覚えておくことも得意だ。
だからこそ、『おせっかい嬢』と言われるのも嫌いではない。それで誰かの役に立ったり、誰かと誰かの関係がうまくいったなら、世の中にほんの少しだけ幸せが増える気がする。
悲しいことや腹が立つことがなくなることはないのだから、その瞬間は思い切り、悲しんだり怒ってもいいだろう。だが、それと同じくらい、いや、それ以上に楽しい事や幸せなことを思いきり感じよう。
ふくよかな姿も、スマートで素敵な人と比べてしまえば悲しいことにも思えるが、健康であり、何よりおいしいものを食べて誰よりも幸せを感じることができるならいい。
「私はとても幸せだと思うわ」
そういって、シャルロットはケイトが運んできたショコラとお茶に手を伸ばした。
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