白薔薇の宴・2

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白薔薇の宴・2

「ようこそ。ウィングフィールドへ」  日が暮れてきたころ、次々と馬車が到着し、シャルロットとアルマンは屋敷の正面でゲストたちを出迎えていた。 「やあ、アルマン」 「ようこそおいでくださいました。シャルドン伯爵」  早い時間に姿を見せるのは年長者か、年若い娘を伴っていることが多い。中でもシャルドン伯爵はいつも食事を楽しむためと言って、早くに姿を見せる。  今日は娘のシュザンヌを伴っていて、シャルロットはすぐに伯爵を奥の食堂へを案内をさせるように、執事に目くばせを送った。 「今日は一段と素敵だね。シュザンヌ」 「ありがとうございます。アルマン様。そういってくださって嬉しいわ」  シュザンヌは今年社交界にデビューしたばかりでアルマンと貴族や王族が通う学園では同級だ。  お互いに、そろそろいくつかの縁談の話が聞こえてきており、アルマンもその一人に数えられている。当人たちの間には残念ながら少しも甘い感情はなく、だからこその親しみをもって接している。 「ようこそ、シュザンヌ。私の可愛いお友達」 「姉上。シュザンヌを広間に案内してくださいますか?」 「ええ。もちろんよ。さあ、シュザンヌ。こちらに来てその素敵なドレスを見せてくださる?」  アルマンが胸に手をあてて軽く会釈をして離れた後、緊張気味のシュザンヌを連れたシャルロットは白いバラを手に歩き出した。 「緊張するわ、シャルロット。私、どうしたらいいのかしら。うまく挨拶できる自信がまったくないの」 「何をいうの。アルマンが言う通り、今日のあなたは今までで一番素敵よ。どんな人も貴方を見れば笑顔になるわ」  シュザンヌの姿を見てシャルロットは、美しく結い上げた髪にバラを差した。まだ若いために、上の方は結い上げて、その下は垂らしたままだ。  そのかわいらしい姿で緊張する姿にシャルロットはついつい微笑んでしまった。 「アルマンは昔からの知り合いとして褒めてくれるだけよ。アンドリュー様から見れば私なんてほんの小娘にすぎないわ」  アンドリューは、シュザンヌよりも六つほど年上になる。アウルと共に噂はいくつもあったが、婚約はまだしていない独身の青年貴族だ。    緊張に震えるシュザンヌを広間に誘いながら、シャルロットは優しく首を振った。 「自分自身をそんなふうに言ってはいけないわ。あなたはとても素敵よ。さあ、笑顔をみせて?」 「本当にそう思う?」 「ええ。もちろん」  力強く繰り返したシャルロットに、ようやくシュザンヌはぎこちない笑みを浮かべた。広間にはまだゲストもまばらで、あちこちで交わされる挨拶を見ながらシャルロットは可愛らしい友人の緊張をほぐすのが先だと考えた。   「シュザンヌ。少しだけ休憩室に行きましょうか」  シャルロットは広間を抜けて女性用の休憩室に向かう。ゲストの女性たちが、一息入れるための部屋で、簡単に手直しできるよう、化粧道具も用意してある。  近くの椅子にシュザンヌを座らせて、シャルロットはその中から淡いピンクのチークを手に取った。
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