ポテチストロベリー、チョコレートガム①

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 「やっぱBのLは苦手なまま?凄然アマザディアのニルヴァめちゃくちゃ受けっぽくてもう薄い本が市場を駆け回ってて草なんですけどねー。あ、ごめん美夏ちゃんは2chとか知らないのに意味わかんないですよね。うん、この業界は沼だからちょっと覚悟いりますから…。コズニル今ピクシィで漁りまくっていますんで、是非ハマってほしくはあるんですが。あー絶対美夏ちゃんには素質があるのになー」  渡部優美(わたべゆみ)はセミロングでぱっちり二重のたぬき顔でしっかりとしたぱっと見で美人とわかる顔立ちをしている。身長は美夏の10センチ上、164センチでクラスの男子からでかいだの言われているがオタクでからかわれたことはあまりない。美夏はそれを容姿が整っているからと推測しているが、その通りである。自分なぞとつるまなくても、クラスの上位カーストに位置する女子たちに混ぜてもらえるのに、不思議だと美夏は常に思っていた。それは彼女の肥大化した自分自身の顔へのコンプレックスであり、アイデンティティだった。常に人の目を意識して行動してしまう癖が治らず、分厚いレンズ越しでも直視できない人の視線は恐怖そのものである。美夏は渡部さんと並んで顔やスタイルの差が明らかになることに嫌な気持ちになりつつ、彼女が男同士でイチャイチャすることの素晴らしさを熱心に語っているのを隣で聞き続けた。お互いに自由帳を向かい合わせに開き、推しをお互いの自由帳に描き合う。絵のセンスで言うと圧倒的に渡部さんの方がうまく、美夏はそのこともコンプレックスだった。  「同人誌とか買ったことないよ」  「あ、こらこら。美夏ちゃんしーしー!こんなにパンピーのいる場所で薄い本の正式名称とか言っちゃダメですよ!薄い本、暗喩ってやつですよ、まぁ一般の場所で5chだのわかばだの言っちゃう私も私なんですけど…」  言っている意味がまるでわからなかったが、美夏はあぁなんかごめんと呟いた。渡部さんはそうして合間合間に挟む美夏の合いの手を聞きながら手をまったく止めずマシンガントークを繰り広げた。お昼休みに教室に残っている連中は極少数で、なぜならこの時間帯はクラス対抗で体育館でバスケやらをすることが多いからだ。女子たちもその男子を目当てだったり普通に体を動かしに体育館に集合している。つまりこの時間、机を向かい合わせにしてイラストを描き合い、漫画だのの団欒をしている美夏たちは異常な方なのだ。それでも美夏はハブられたりすることもなく、こうして平和に過ごしていた。正直、連の活躍する姿が見たくはあるが、別クラスの渡部さんと長く話せるのはこの時間だけなのだ。それに眺めるだけなら授業中でもできる。  美夏がそろそろ主人公の兄であるコズレイクの顔が完成しかけた時、まだ10分と経っていない教室の扉が、大きな音を立てて開いた。思わすその音の方に顔を振り向かせてしまい、すぐに美夏は顔を戻した。ゼッケンをそのままに、顔から噴き出る汗をタオルで拭く連がぬっと現れた。その姿を凝視していたと思われたくないから、美夏はすぐに視線を自由帳に戻した。汗だくになって、Tシャツの首周りの色が濃くなっていたが、まるで不快感がない、やっぱり連はどんな時もカッコよかった。
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