ポテチストロベリー、チョコレートガム①

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 その翌日、美夏は学校へ行く準備を寝ぼけた頭でしつつ、スマホの画面を半目で見る。眠たいということもあるが、しっかりと直視するのはあまりに恥ずかしくてできないのだ。うつうつと目を細くし、顔を揺らして最小限見る範囲を狭め自分の作品を爪先でタップする。無線の一般家庭程度の速度のWi-Fiのため一瞬しか待たされずすぐに美夏が昨日書き上げたページへ飛んだ。冒頭の、中々に良い出来の、拓と梨香の会話シーン…!  (…あれ?)  美夏は人差し指と親指で閲覧数のところを細めで見つつ拡大するが、なんだろうか、数字の上の方が霞んで見えないが、これは何というか、0だ。0に見える。美夏はリンゴ並みに赤くなりつつ、目をちょっとだけ開く。やっぱり0だ。0、閲覧数がゼロなら評価する人もゼロ、コメントもゼロ。誰も見ていないのだ。美夏は目を完全に開け、パチパチとゆっくりした速度で瞬きした。書き上げたのが夜の20時辺りでちょっと読み返して(ほんとにちょっと、恥ずかしくてそれ以上は)すぐに投稿したから、大体10時間は経過している。だというのに、私の作品は見てもらうことすらできなかったのか。批判コメントが合ったらどうしようかとベッドで小一時間悩んだ時間は全て無駄だったのだろうか。  美夏はあまりのショックに自暴自棄になりそうだった。所謂、自尊心というものが粉々になっていく気がする。あまりのことに、そんなに出来が悪かったのだろうかとそのまま作品ページまで飛び、一文字一文字を少しずつスクロールして読み進める。悪くない、悪くない出来…のはずだ。なのに、どうして?美夏は初めて自身の作品をネットに上げたので、評価される以前に見てもらうことが最初に立ちはだかることを知らなかった。数千万の人間がネットを使用しているので、数人程度くらい余裕で反応してくれるだろうと思っていたのだ。なんてことはない、誰も見ていない作品に人は注目しないのだ。そんな単純なことが中学2年生の美夏にわかるわけがなく、思春期真っ盛りのハートにぐっさりと刺さった。それはもう深々と。ロンギヌスの槍に刺されたイエスのように。彼は物理的にも貫かれたが。  「みっちゃん?起きてるー?」  扉を挟んで、母の声が届いてくる。あぁーい!と学校内では出したことないくらいでかい大きさの声で八つ当たりに近い返事をする。朝に無頓着な母親の声を聞くとなぜこんなにカッとなるんだろうか。  スマホを見るともう7時になりそうになっている。10分度にやってくるバスに乗らずに歩いて行ける程度の距離なので、8時に学校につくためには40分には準備を全て終えておかないといけない。  スマホの電源を切り、充電器と接続しベッドに投げ捨てる。部屋着からやぼったい制服に着替え、スカートを折り曲げようか迷い、全身鏡であまりの不格好さにすぐ戻した。  電子レンジでチンした唐揚げとトースターで焼いた6枚切の食パンにマーガリンを塗りたくり、バターナイフを振りすぎて袖にマーガリンを付けつつ、コーヒー牛乳で流し込む。備え付けのレタスは時間がないことを言い訳に一枚も食べず、マヨネーズが無駄光していた。  
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