ポテチストロベリー、チョコレートガム①

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 また書いてしまった。美夏は顔が赤らむのを抑えれず、書き切ったことに少々の充足感を覚えるが、これを投稿して芳しくない反応を貰うのが正直憂鬱だった。あんなに時間をかけた文を気に掛ける人がいないのは、思春期のプライドに一番響くのだ。世界の中心は自分だという絶対的王者な気分がこんな若いうちから砕かれるのは酷だ、美夏はまた誰からも見られなかったらと、恐怖でサイトの投稿ボタンを押すことに怖気づいてしまう。しかし、連が言っていたのだ。美夏は数時間前まで学校にいたがその時に起きたことを思い出し、別の意味で顔を赤らめた。最初に思い出されたのは連の優し気で薄い瞼がくっついた横顔だった。  普段通りの授業内容を平常心を装いながら美夏は受けていたが、内心は混乱して仕方なかった。いつもは合間合間に教師の顔色を伺ってプリントにイラストを描いて退屈な授業を乗り越えていたが、今日はそれができなかった。教科書をちゃんと読みノートを取っている美夏の姿に教師は真面目に受けているとこんなことで感心していた。黒板に書かれていく文字を写すだけの作業を延々とやっている美夏は脳内で考え尽くしていた。  (え、待って待って。なんで連があのサイトの名前知ってんの?そんなに小説大好きなキャラだった?え、マジでわからん、えーじゃあ連も私が書いたの読んだ可能性が微レ存…いやないわ。だって見た人いなかったし、思い出すのきつい、あれ連が読んでたとか恥ずかしさで死ぬわ。だって誰も見てなかったんだよ?ダサすぎるでしょ。え?じゃあ連は何の小説を読んだんだろ。誰の?まさかあの同年の子の?マジか、だったら嫌だな、大体連そんなネットで探すレベルで好きだったっけ?なんか鼻かゆ、すごい気になる。え、聞いてみよっかな、連君誰の見てるの?って私もそうして仲良く…いやキモ過ぎ。会話が聞こえたとかガチでストーカーじゃん、私気持ち悪いって!)  美夏は拳を作りギュッと親指を握り込んだ。  昼休みになり、給食当番の連から少なめに注いでくれたスープを手にし、クラスのカースト上位の女子たちは嬉しそうに話している。お盆を持った美夏は後がつっかえているから早くどけと、嫉妬が入り混じった目で睨んだが、パッとこちらを振り向かれすぐに目線をそらしキョドった。彼女たちは一人で並んで立っている美夏を一瞥し連に2,3言言い席へ戻った。んだよ、ちょっと見てただけじゃん、絶対悪口言われてると自意識を爆発させながら美夏は給食着ですら似合う連になみなみ注がれたスープを渡され、私もあの子たちみたいに少なく注いでほしいと言えず、黙って重さに耐えながら自分の席に戻った。  席といっても給食はランチルームで長くした机に対面になりながら食べ、教室の席とは違いくじ引きで決められた席がある。しかも2組や別のクラスも合同なのだ。なので連の隣は美夏ではなく、美夏の隣は女子に下手ないじりをするので嫌われている井口とアニオタの長野の間に挟まれ、目の前に女子の中で最もギャルなのに先生方から気に入られている世渡り上手の杏梨が自前のネイルを合掌前で暇だからかずっと眺め、マジヤバイと呟いている。  美夏はこの給食の時間が何よりも嫌いだった。
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