ポテチストロベリー、チョコレートガム①

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 今日のいただきますを言う係である田村さんが顔を赤らめつつ手を合わし号令する。美夏はあまり好きな献立ではないのと友人が回りにいないのではしゃげず、形だけ手をそろえ声は出さなかった。  井口は美夏ではなく隣の秋さんと会話するので、美夏は助かっていた。しょうもない井口と話すなんて嫌すぎると体を若干遠巻きにするが、そうすると長野にぶつかる。長野は食べるスピードがとても速く、顎にはタプタプの肉が付いていて美夏よりきつい眼鏡をかけている。なんというか動物的な匂いというか、風呂に入ってない匂いがするので美夏は顔をしかめ、失せた食欲を奮い立たせ、立ち向かう。この最悪な組み合わせでニコニコと食べれる人がいるなら変わってほしい。コッペパンをちぎってちまちまと食べ、仕方がないので前をしっかり向く。少しでも鼻を遠のけたい一心だが、目の前でリップがテカっている杏梨は二人よりも遥かに美夏は苦手だった。何故なら井口も長野も一緒にいたくはないが無害だからだ。しかし杏梨は違う。食べることよりも喋ることを優先し、けばけばしいまつ毛をはばたかせて付近の人間と話そうとするのだ。井口が話し相手になればいいと思うが、どうやら自分よりも強そうな人と話したくないらしく、露骨に返事が少なくなり秋さんと結託してのけ者にする。杏梨はケロッと対象を変え、そして消去法的に一番大人しく黙って聞き役をする美夏と話すのだった。  内容はまるでない。付き合っている彼氏からそろそろ結婚したいと迫られていて困っているだのこんな高いプレゼントをしてくれただの自虐系自慢ばかりされるので美夏はほとほとうんざりしていた。なみなみ連から注がれ手渡しされたスープのワンタンを口に含み、愛想笑いをし苦い気持ちと一緒に飲み込んだ。人の自慢話を聞くのはあまり苦ではない、杏梨は言葉の節々で美夏自身を見下しているような雰囲気を醸し出すのでそれが嫌だった。  (どいつもこいつも容姿で判断して、線引きしてバカみたい)  美夏は自分が連のことを容姿で好きになったことも忘れ、見下し返した。しかし、心の中で思っただけなのでそれは今日のメインの鳥ごぼうと一緒に胃袋に落ちていった。  地獄の給食を終え、一人にされたくない杏梨にえ待って待ってと言われるが友達が待ってるんだよねと心の中で呟き、近づいてくる渡部ちゃんに軽く手を振る。昼休みはよく二人で集まって遊ぶのだ。  「や。や。や!どーもどーも!昨日さ、私が勧めた夏間弐の全て、語りたいんですよ。舞台は江戸時代、そこで猫のノミ取りで生活していた怠け者の菊衛門がお偉いさんと何故か西へ航海するというストーリーで…」  渡部ちゃんは美夏よりもオタクで、絵が上手く何故か誰にでも敬語を使う。友達である美夏にもくだけた敬語で、芝居がかった話し方やアニメのキャラクターみたいな口調のごくごく普通な女の子だ。お盆を戻し、話しながらランチルームを出る。一人取り残された杏梨はまたケロッとした態度で半分以上残して立ち上がった。食べきれなかったからスープ鍋に入れて廃棄し、早く彼氏に会いたい~と誰に言うでもなく呟いた。
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