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二人目の悪役令嬢 マジョリー・ダグラス・ホルダー
二人目は――中世ヨーロッパ風のご令嬢、だ。丸みを帯びたふくよかな身体の線と、血色のよい頬で、衣食住の満ち足りた生活を送っていることが伝わる。幾本もの縦ロールがふわりと揺れる。上品な形の口が開かれ、発した言葉は――
「あ、どうも。名前はマジョリー・ダグラス・ホルダー。とある高貴な生まれの令嬢ってやつだ。おう、なんだそのしゃべり方は顔に合ってねーぞという顔だな。わかる。最初に白状するが俺の中身は男だ、三十三歳の。……あれ、三十四だったかな。まあいいや。仕事は営業をやってる。鬼上司がいてな、成績も業績も厳しい環境にいる。現実から逃げたい気持ちになっていたのは確かだ。とはいえ、まさか本当に別世界に行くとは」
最初は、流ちょうな日本語を喋っているのが気になったが、今気になるポイントはそんなことではない。
「あなた、異世界……転生したオジサンってこと!?」
声を裏返して叫ぶ雪平に、ほかの者たちは口をぽかんと開けたり視線を逸らしたりして、
「いせかいてんせいってなに?」
といまいち飲み込めていない微妙な反応だった。
「転生はしてないぞ。たぶん。まだ死んでないからな。確かに何者かに会社の階段で突き飛ばされた記憶はあって――」
「え、交通事故じゃなくて? 人為的な殺人未遂事件だったの!?」雪平だけがマジョリーの話に食いついていた。
「現実の俺は目を覚ましてないんだ。なぜか幽体離脱のような状態で魂だけ身体から抜け出て、気づけば魔法世界のお嬢様になってた。意味が分からないけど、とにかく早いこと元の世界に戻って回復して、犯人を突き止めたい。目がさめないままだと植物状態で死亡判断されかねないからな。国内で有数の名家のアーサーっていう坊ちゃんと結婚できれば、なんでもひとつ願いが叶うって話らしい。なぜ男を攻略せにゃならんのだ。やれやれ」
マジョリーは話し方や表情、しぐさは男のものだったが、声は誰よりも高く透き通るようなソプラノだった。
「今は仕方なくアーサーをデートに誘ったり手作りお菓子のプレゼント攻撃したりと攻略してるわけだが……いかにもっていうかわいいお嬢様がいて、行く先々に現れ、邪魔してくるわけだ。いや、彼女にしてみれば俺こそが邪魔者の『悪役令嬢』なんだろうけど、こっちも人生かかってる、負けるわけにはいかない。負けそうだけど。はぁ……そりゃそうだろ、いくら美少女でも中身男だからな」
「なんだか面倒くさいことになっているのね……」
だんだんと頭がこんがらがってきた。まだ二人目の話を聞いたばかりなの
に。
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