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序
「きぃぃーっ! どうしてこうなるのよ!? 絶対におかしいわ。あたしのほうが羽住くんに相応しい令嬢なのに! あのポッと出の転校生が選ばれるなんて!? 覚えてらっしゃい、このあたしをコケにしたことただじゃ済まさないんだからーっ!」
ブレザーの胸ポケットに忍ばせていたレースのハンカチを前歯で噛み、雪平一代(ゆきひら・かずよ)は地団駄を踏んだ。ハーフアップにセットした茶色の髪に、赤いリボンが揺れる。硬いローファーのかかとは、草ごしに土と砂を踏み抜いた。――かに思われた。足下がコンパスで丸くくり抜かれたように突如消えていた。
穴である。
起こってはならない急な浮遊感に全身が震える。
「なんでぇぇぇぇ~!?」
悪役は大空に吹っ飛ばされる懲らしめを受けるものだが、雪平嬢は落とし穴に落ちていった。
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