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グループ会議開始
やってしまった。また仕切っていた。中学に入った頃、クラス委員長を決める段になって誰も立候補者がいなかった。誰もが一様に、先生と顔を合わせないようにうつむいている中で、雪平はすっくと背筋を伸ばした。手を挙げる。
園児の時から、人前に立つのが好きな子どもだった。目立つのは苦ではない。
小学校でもクラス委員の常連として頼りにされてきた。ただ中学にあがると、生徒たちの無邪気さは目減りする。斜に構える者や、引っ込み思案で発言できない者など。子どもの頃のまっすぐな瞳で、先生に発言する雪平は、浮いた存在となっていった。鈍い彼女でも、学年があがるごとに気づいてきた。クラスに馴染んでいないことに。誰とでも話はするが、親しい友達はできず、どこか遠巻きにされていた。けれど、誰もやりたくない「クラス委員長」を率先して務めて面倒ごとを引き受けてくれる便利屋のような雪平は、多少うざったいにしても、クラスに一人ほしい人材であった。
成績もよく教師からの評判も厚いため、推薦で有数の有名学校に入学した。
高校に上がっても彼女の持ち前の性格は変わらなかった。
聖エレノア学園。明治時代からの伝統が続く、紳士淑女のための全寮制高校だ。つい何年か前まで、女子校だった名残もあり、全校生徒のうち八割は女子生徒である。主にそれが理由かは不明だが、男子も品行方正で模範的な生徒が多い。
そこでは、真面目な雪平を蔑むような生徒はいなかった。高校生活はだいぶ居心地がよかった。友人もできた。それにもうひとつ、大きな変化が起こった。
恋だ。
十七歳にして初めての恋。
雪平はポケットの中のハンカチを痛いほど握りしめていた。
あああ思い出すだけで悔しいのどが枯れる苦しい顔がこわばる! なぜあの女なのか、わたしではなかったのか――
「……雪平さん?」
気が付くと、同じテーブルに座った四人が不安そうにこちらを見ていた。こほん、と雪平は軽く咳払いし、平常心を己に命じて微笑んだ。全体のリーダーとして名乗りを上げた彼女は、グループの中でも自然と代表者となっていた。
出しゃばるようで恐縮だが、のちにリーダー会議も控えている。その方がなに
かと都合がいい。
「では、話す順番はじゃんけんで決めましょうか」
謎の強さを発揮して雪平は勝ち、順番は最後となった。
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