一人目の悪役令嬢 日下部玲子

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一人目の悪役令嬢 日下部玲子

 一人目。  古めかしいゆったりしたデザインの濃紺セーラー服を身にまとった長身の美人。鋭い印象の目に、ショートカットがよく似合う。昭和の青春ドラマを見ているようだ。  二人目。  緑と白で彩られたドレスを着て、ボリュームある金髪を縦ロールにした、セルロイド人形のような青い瞳をした少女。外国人、それも現代ではなさそうだが……。  三人目。  麻の葉模様の紫袴を着て、足下は黒ブーツ、長い黒髪を二つに分けて三つ編みおだんごにし、耳が隠れるラジオ巻きにした女の子。少女マンガから飛び出してきたような子だ。  そして四人目。  彼女は最もよくわからなかった。透明な肌に均一に色を塗ったような肌。薄いグレーの髪は染めているのではなさそうだった。美人ぞろいの集まりでも、ことさら顔とスタイルの均整が取れている。人工的に設計したかのようにーー  水色と黄色の、つぎはぎだらけのワンピースを着ていた。むき出しの肩でもさほど寒そうではなく、平静な目をしている。うつくしい翡翠の目だ。  じゃんけんで負けた一人目から話が始まった。  面倒くさがりのようで、彼女の話は一文が短く簡潔だった。 「名前、日下部玲子。うちは女子校。一年生と三年生でペアを組んで三年が一年の世話をする『姉妹(スール)』制度というものがあるんだけど……」  聞いたことがある! どこかのお嬢様学校に実際にあるとは風の噂で聞いてはいたが、本物に会うのは初めてだ。 「スール制度で仲良くなった一年生の茉莉。スールの姉妹は寮も同室になるから、私は日に日に彼女に惹かれていったの。友情以上のものを感じてたってわけ。でもある日、私の幼なじみの沙弥子も茉莉が好きだって言い出したのよ!  信じられない。昔から妙に私に敵対してくる奴だったけど、同じ人を好きに なるなんて。言っておくけど、茉莉の恋人になるのは私だから。あんな頭沸いたお花畑女なんて、茉莉には合わないもん」  冷水のような表情だった玲子が、突然火をともなって熱く突然の告白をした。  雪平が質問でさりげなく探りを入れてみると、玲子は80時代を生きている女子高生だと判明した。昭和60年代に生まれ、昭和の終盤に青春を送っている子だ。玲子から見ると雪平が近未来少女ーーというわけだ。 「沙弥子とは、互いに抜け駆けしないように同盟を結んだの。要するに、同じ日にそれぞれ茉莉に気持ちを伝えようってね。いよいよ、告白すると決めた日がやってきた。待ち合わせに向かう途中で、落とし穴みたいなものに落ちたってわけ」  高まった怒りを沈ませるためか、玲子は長く細い息を吐き出した。
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