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四人目の悪役令嬢 ダークメシアン
四人目。
順番を迎えて雪平たちの視線を浴び、心得たようにひとつうなずいた。情緒の感じられない機械的な動き。灰色の髪は最高級の糸のようにほつれもなくまっすぐに胸元にまで届いている。うすみどり色の瞳は微動せず、まばたきが異様に少ない。小さな口が開かれる。その瞬間、耳では聞き取れない、初めて出
会う言語が放たれた。
「ーーーー。ーー」
新しい文化を受け止めるまでは時間がかかりそうだ。脳が混乱状態を呈している。わからない、と雪平が伝えようと腰を浮かせた。刹那、同じ音量で合成音声のような声があとから聞こえてきた。
『ごきげんよう。我が名はダークメシアン。メシアンと呼べ。この音声は数秒遅れてAIが翻訳している』
はっとする。メシアンの唇はもう先の言葉を繰り出している。が、先ほどよりも音量が調節され、非常に小声に絞られていた。スピーカーを操作しているかのようだ。翻訳の声が続いた。
『我は故郷をもたない、さすらいの宇宙海賊だ。この世のお宝、七つの秘宝のコンプリートを目指している。このような奇妙な亜空間に強制連行されるのは初めてである。さきほどデータの検証が終わった。ここでは時間が止まっている。元の世界に戻ったときに何年も過ぎているなんてことはないので安心した
まえ。生理現象も発生しない。しかし通常通りの飲食や睡眠が可能だ。何者かがこの場所と料理、宿泊施設を用意した。歓待しているのだ。これは好意であり、我々を罠にはめたり傷つけようとしたりする意志はいっさいない。この空間は一晩、およそ人間の体感で十二時間ほど経過後、自動的に消え、その瞬間
に君たちはおのおの元の世界に戻れる。それまで自由に歓談し、おいしいものを食べ、眠りたい者は個室を自由に使え……ということだ。要は、どこかの親切な人に女子会一泊旅行をプレゼントされたと思えばよい』
「え?」
と、雪平が言う。周囲を見わたせば、玲子も、マジョリーも、梅も、みな一様に「え?」という疑いの目でメシアンを注視している。四人の視線を受け止めたメシアンは二秒考えてから手を打った。
『早口だったか。ならば速度をゆるめてもう一度』
「いい、わかったから、言ってる意味はわかったわ。いや意味はわからないけど」
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