黒幕?

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黒幕?

 不可解そうにメシアンが眉を下げたが、その表情も美術品のようで見入ってしまった。メシアンは宇宙海賊、ようするにならず者だと名乗った。とても悪党には見えない。お宝を集めているというが、メシアンのその身のほうがよっぽど価値が高そうだ。 『疑っているのか?』 「証拠がない。どうしてそんなことがあなたにわかるの? 仮にそうだとしても、何者かがプレゼントしたって……、その人が私たちを集めて善意でもてなす理由がないでしょう。裏があるとしか思えないわ」  雪平は額を抑えた。ホスト側からの説明は一切なく、顔を見せることもない。怪しいにもほどがある。ほいほいと料理を口にするような考えなしは、この場にはいないのだ。  無作為に連れてきたなら、少女、それも令嬢である理由はなんだ? 考える ほどに悪い想像しか浮かばなかった。百人の少女。雪平たちは全員が初対面だ。それに今のところみんなばらばらの時代・世界から来ている。彼女らに共通の知り合いがいるとは考えにくい。油断させてよからぬことを企んでいるとしか…… 『今回のことを実行した者の動機か? わからない。だが、悪意はくみ取れなかったため、善意と解釈した。それだけだ』  ダークメシアンが目を瞬かせる。 「善意だって? そりゃ少しお人よしすぎるな。相手さん、なんのメリットもなしに突然こんなことするわけないだろうが。おもてなしっていっても、実体は拉致。おまえの言葉を信じれば、ここはそいつが生み出した亜空間なんだろ。俺たちは集められ、そいつの手の内にいるわけだ。そんな高度な技術を有 してるヤバイ存在ってことだろ。しかも育ちの良い女の子ばっかり。犯人はそういうのが好みのオッサンか? よからぬことに利用しようとしてるとしか思えないけどな」  苦笑い混じりでマジョリーは金髪を揺らした。  雪平のグループには男がいる。正体をかくして令嬢を演じることもできたはずが、最初からタネ明かしをしたし、現状一応は信用できる。いざとなったら。 「いや、期待されても困る。中身はともかく身体は女だ。腕力は君たちとそう変わらないよ……」  マジョリーが背もたれに寄りかかり後ろ頭を掻いた。それはそうだ。黒幕がいない、別の場所からカメラ中継のような形で監視しているのかもしれない。そう思うとスウと背筋に冷たいものが通る。  また、百人の令嬢たちの中に黒幕が潜んでいる可能性もある。この中で最も怪しいのは――。  雪平は慎重にダークメシアンを見た。 『つまり、我が黒幕だと疑っているのか』 「いえ、わたしはあまり疑っていません。本当に今回のことを仕組んだ張本人だったら、そんな風に目立つ格好で奇妙な発言をするとは思えませんし。なにか企んで紛れ込んでいるならなおさら、極力注目されないように周囲に埋没するのでは?」  そうつぶやいたのは梅だった。大正乙女にとっては、未来人のようなダークメシアンは最も縁遠いなじみのない存在だろう。 「いやいや待て、逆張りって場合もあるよ。そう思わせるための逆張り。ミステリー小説では怪しすぎる奴は犯人じゃないことも多いが、裏をかいて1番怪しい奴が犯人も充分あるだろ」  そう続けて持論を展開したのはマジョリーだ。  ダークメシアンは会話の応酬が落ち着くのを待ってから、一呼吸して告げた。 『我には主催者の動機までは解析できない。心や意図を読むのは超能力者だけだ。我の能力の範囲で入手した情報を共有したに過ぎない。だが、たしかに我の発言には証拠もなく証明もできない。よかれと思って話したが、疑われて残念だ』  沈黙がその場に降りて支配した。
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