一食目「美味しいカニがあるんですけど、毒味してみますう?」

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 アンティーク調のゴージャスな椅子に浅く腰掛け、すらりとした足をテーブルの上に組み上げて、アイマスクをしながら眠っているこの男の名はポペシャン。  ゴシックパンクのオーダースーツに、暗黒色の白衣を着崩している風体は、まるで無法地帯の闇医者を連想させるようだ。  こんな怪しげな風采をしたポペシャンであるが、ここグラトニーズと呼ばれる宇宙ステーションの主である。  ステーションとは言うものの、どの国家にも属さない未確認の存在で、運用を終えた衛星などの宇宙ゴミと共に、衛星軌道上に浮かんでいるだけの秘密基地のようなものだった。  そこは古惚けた洋室のプレハブを、幾つも連結したような建物で、不思議なことに地球と同じ重力が働いてる。  そのため、窓の外に宇宙が広がっていることを除けば、地上の家屋で暮らしているのと変わりは無かった。  そんな天空の隠れ家では今、緊迫した空気が張り詰められていた。
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