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掲示板に「210」の文字はなかった。
つまり僕は、受験に失敗したらしい。
同世代らの麗らかな声が響き渡る県立A高校玄関前。不合格なる酷な現実を前に、しかしそれでいて己が心はまるで鏡よろしく凪いでいた。
何せこの一年、僕ときたら分厚い参考書を読むよりもテレビゲームに興じている頻度の方が遥かに多かったわけであって、当然最悪のシナリオも想定内、いやむしろ合格したら奇跡くらいの心持ちで端から勝負を諦めていたのだ。
幸い、滑り止めの私立校からはすでに合格通知をもらっていた。解答用紙に名前を記入しさえすれば合格できるようなザ・底辺校ではあるけれど、いくら偏差値が低いとはいえ、高校であることに変わりはない。無事卒業することができれば、もちろん高卒資格が取得可能だ。公立校よりも学費が高額なぶん両親には金銭的負担を強いてしまうことになるが、そこはかわいい息子のためである。きっと目をつぶってくれるだろう。
花冷えの街。どんよりと垂れ込めた鉛色の空の下。敷地内にたむろする他の受験生らをよそに一人、履き潰したローファーの底を鳴らしながら、僕はそそくさと家路に就く。
学ランのフラップポケットに意味もなく両手を突っ込み、両耳には真っ黒な有線イヤフォン。サッカー部時代の先輩から千円ぽっきりで譲り受けた安物ミュージックプレーヤーのシャッフル再生機能は洋楽を選曲中。なんちゃらギャラガーだとかいうマンチェスター出身の偉大なヴォーカリストが、英検三級取得程度のリスニング能力では歯が経たぬような英詞をざらついた声でもって叫んでいる。
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