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2、アナウンサーと芸能人
それから数日して。
月に二回の清武さんと河本との飲み会。いつも行くのは、局の近くにある居酒屋【いぶし】だ。
脱サラしたオーナーと、奥さんが二人で切り盛りしている店。オーナーが自家栽培している新鮮な野菜を奥さんと調理している。魚も鮮度抜群で、一度オーナーの知人が釣って来た魚をその場で捌いてみんなに振舞ってくれたこともある。日本酒に詳しいオーナーはメニューに日本酒の飲み方を紹介し、各地の名酒を揃えていた。そんなこだわりの店は【あさとひるのあいだ時間】のコーナーでも紹介させてもらったことがある。
オレら三人はカウンターに陣取ってマスターたちの手さばきを見ながら飲んでいた。
「赤城、これみた?」
日本酒がいい感じ回って来て赤くなっている清武さんが、スマホの画面をオレに見せてくる。その画面にあるのは、SNSの呟きをまとめたサイトだ。ひょこっとその画面を覗くと、自分が映っていた。大きな文字がテロップのように表示されていて、そこには『イケメン地方アナウンサー!』とある。写っている服装は例のファッションショーの取材をしたときの、一張羅のスーツに蝶ネクタイ。
「え?オレ?」
「お前いつもは自分でイケメンって言ってるくせに、人に言われたらビビるんだな」
清武さんは手酌しながらカカカ、と笑う。そんな清武さんを見つつも、画面に戻る。
『軽快なレポートを見せた◯◯局の赤城隆仁アナウンサー。地元では赤城ちゃんと言われる程の人気者!笑顔が可愛い、イケメンアナです!』
どうやら中継がきっかけで、この記事が書かれたようだ。清武さんが他の画面に変えるとオレの顔が出てきて、コメントやリアクションを示すハートがたくさん出ていた。
『笑顔がいい!』
『動画見たよー。ノリツッコミ面白かった』
そんな褒め言葉に混じって、こんなコメントがあった。
『羽矢翔くんに似てる?』
『翔くんだー!』
誰だろう。こんな名前聞いたことがない。オレは清武さんに聞いてみた。
「羽矢翔って、誰?」
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