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◆◆◆ スプーンですくって口元に差し出したスープを恐る恐る口にした少年がメルヴィンを見上げる。 「旨いか?」 メルヴィンの問いかけに頷く白銀の頭を撫でてやると紅玉の様な瞳がきらりと光り純粋な笑顔が花開く。 更にそこにタイミング良く杖を付きながら歩くセオドアと彼に肩を貸すユージンが現れるものだから、その瞳は更に大きく見開かれて。 メルヴィンの膝の上に座っていたユキは最近ユージンと遊ぶのがお気に入りらしく、ユージンに向かって抱っこしてと手を伸ばすからかなり腹立たしい。 主にユージンに対して。 ◇◇◇ まだ会話は出来ないもののユキの体調は大分良くなってきた。 これ以上、自身の存在を失わせない為にあの帰城の日の出来事は忘れされていない。 忘れさせてやれたらと何度も思ったが、日々の蹂躙の記憶さえ欠片化を担っていたと判明し、王となって初めてメルヴィンは諦めるという選択を選ぶしかなかった。 あの日の記憶が最後の恐怖であったユキは、あの後目が覚めてからずっとメルヴィンに懐いている。 刷り込みだなと笑ったのはダニエルだったか。 食事を喜ぶ姿に親しい人間に甘える姿。 まるで幼子の様な仕草さえ成長を感じる。 壊れて失われてしまった感情をメルヴィンは赤子相手の様にユキに与え刷り込んだ。我が子達の子育ては妻達とその乳母に任せっきりだったのだから子供たちより愛情も時間も籠もっている。 そして初めてあった日からの感情も更に大きく重くなっている。 愛しい人を育てる楽しみは、至上のものと言っていいだろう。 ◇◇◇ 「くっそっ!!胸糞悪りぃ!!」 あの後、眠るユキに付き添う事を決めたメルヴィンは皆を下がらせ、最悪の場合も考慮した今後の対策をユージンとダニエルと話し合おうとした。 ところがそこまで静かに皆の様子を見ていたダニエルが、人払いされ扉が閉じた途端、怒りの余りといった風貌でメルヴィンでさえ殴っただけのテーブルを木っ端微塵に叩き割ったのだ。 「どうしたっ?!」 「ユキ様の……ユキの身体には、下腹の魔力変換紋の他に首と両手足、あとは下肢に二ヶ所……具体的には性の象徴の付根と性の器とされた場所に……古い隷属紋が重複で施されているっ!」 「せっ、せ、性器に隷属紋だとっ?!」 「はぁあ?!……奴隷紋かっ……くっそ、あの糞ガキがっ!」 「ああ、今はこの国に無い奴隷の、それも性奴用のものだ……それに……」 古い付き合いであるダニエルの本音の言葉にメルヴィンもユージンも思わず悪態が口をつく。それは確かにあの場では話せなかっただろう。たとえアレクシがそれを知っていたとしても。 「どうした?」 怒りに頬を赤くしたユージンが躊躇いという言葉が一番似合わぬダニエルの様子に問い掛けた。 「……重複してあちらの世界に帰れないように……いや、この国から逃さないように拘束紋も施されている」 「!!」 「しかも、解術させる為、術者を魔力の痕跡を先程追っていたが既に殺された後の様だ」 「それは……」 「もはやユキに打たれた紋は解術不可能と言う事だ」 その言葉に三人は最悪の場合も含めて、徹底的な策を講じた。 大まかな今後の方向が決まり、解散となった時、このままユキを見守るメルヴィンにユージンは今回の第一王子側近、その周辺への徹底的な処罰を誓った。そんなユージンに部屋の隅で魔術省への転移魔法を発動させかけていたダニエルが満面の笑みで戻ってきた。 「ぐふふっ。もっと楽しい罰の方法がある。ついでにこいつは、今後の巻き込まれ人の救済にもなるだろう」 ユキは救えないが……と少し悲しそうな表情を見せた後、ダニエルは暴れる自分より二倍は体格が良いユージンを魔法で拘束し抱えた後、「あとは陛下のお力次第です。セオドアも叩き起こし全面的にフォローをさせていただきますのでユキ様をお救いください」と綺麗なお辞儀をして転移していった。
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