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◆◆◆ メルヴィンは帰城早々、届いた情報に酷く憤慨していた。 今になって思えば幾人かの密偵との連絡が途絶えていた。 自身まで赴く必要があった隣国との国境沿いでの戦は苛烈を極める戦闘だったとはいえ、届けられるべき情報の故意の選別による遮断は確実に第三者、いや第三国の関与が疑える。 まさか自身の不在を狙って本拠地をこんな形で攻められていた事に気が付かなかったとは、自分の不甲斐なさが腹立たしい。 旅装束をほどかぬまま長い廊下を速歩きで進む中、後ろに従わせる指揮官として戦地に連れて行ったユージンも騎士団に所属し従軍していた第ニ王子レナードもその他の側近達も次々と届けられる情報から次第に判明する事の重大さに顔色から血の気が引いていく。 留守を任せていた宰相のセオドアはメルヴィンが城を旅立った直後、何者かに毒を盛られ薬物中毒と思われる体調不良で現在寝たきりの状態だという。そのセオドアが意識が朦朧とする中、メルヴィンからの的確な指示が来ないことに不安を覚え打首覚悟で部下を城に忍び込ませ直訴してくれなければルヴィンはこの事態に気が付くのが更に遅れ、明日にもこの国が消えていたかもしれない。あるいは今日の夕刻を待たずして……。 今、まさにこの国は風前の灯火だ。 かなり早い段階から登城できていなかったというセオドアの不在の中、せめてセオドアの足の指くらいの働きはできるかと置いて行った第一王子ヴィリヤミとその側近は、足の指くらいの働きどころか足を引っ張り沼に引きずり込むような事しかしてなかった。なにより状況の悪化に気が付かぬまま敵の思惑のままに踊らされていたというから更に腹立たしい。 ユージンがノックしても返事の無い扉を躊躇なく開けた先。教えられた部屋には求める姿どころか人が過ごした気配さえ無く、部下に探索指示を出し続けるメルヴィンやレナードの顔色が更に青から白に替わるころやっとたどり着けたのは、城の中で最も古い離宮の塔の裏手にある、下仕え達でさえ滅多に使わぬ寂れた井戸の前だった。 「なんということだ……」 メルヴィンの隣で目を見開き絶句するレナードの横を咄嗟の対応に長けたユージンが駆けていく。 古い井戸の横に寄りかかるように放置されていたのは侍従服を纏った空色の髪の、本来第五王子であるアレクシだった。 ユージンが縛られた手足の紐を解き覆われた口から布を外してやればアレクシはそのまま倒れそうになる身体を震えさえ、何かを探していた。 「ユキ……ユキが……」 やっと自由になった手足を必死に伸ばし探す姿に、メルヴィンは先程から井戸の向こう側に見えるモノの意味がわかり、自らそれに駆け寄った。 白銀の髪に紅玉の瞳。透けるように白い肌のその人は踏み散らかされた野の花の上に蹂躙されたままの姿で横たわり、透明な雫を瞳から流しながら静かに陽の光を浴びていた。 メルヴィンが膝を付き、思わず抱き締めたその身体は細く、まるでこの世界に未練なく消えてしまいそうな軽さだった。
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