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◇◇◇  その昔、北の小国が聖女召喚を行なった。 その際、一人の巻き込まれ人がいたという。だがよくある事だと国王が軽視した結果、故郷から引き離されたと泣き叫んだ巻き込まれ人はその存在全てをかけて『祟り』となった。穢に疫病、異常気象に天変地異。更に王族や貴族の争いにその国は滅び、その地は五年を待たずして、草も生えぬ永久凍土に変わった。  ただの巻き込まれ人の望郷でさえそうなのだ。 ならば『本物』の聖人が、穢され嬲られた悲しみの先にあるものは……。 メルヴィンが見つめる先、王の寝所に横たわる美しい少年は、医術師の診察後、瞼を閉ざしたままだ。 「戦の最中だったとは言え、随分と恐ろしい魔術兵器を撃ち込まれたものだ。いや、我が国の驕りがこの事態を産み出したのか……」 ユージンの悔しげな言葉に皆頭を垂れる。 他国の関与は明らかでヴィリヤミの側近にも賊は紛れ込んでいた。恐らく西の大国が絡んでいるようだが、時既に遅し。残りは雑魚ばかりで尻尾切りは完了していた。 聖女を名乗る異世界人も容姿こそ可愛いと言えるかもしれないが、腹の中は限りなく真っ黒で、国庫を使い散々わがまま放題をしていた。更にただの巻き込まれ人だったにも関わらず賊の言葉にのせられユキの記憶の欠片で聖女に成りすましていたらしい。 「ユキは兵器ではないっ!」 少なくともこの国にあった穢を払ったのは使用者が誰であろうと、確かにユキの記憶の欠片だ。思わず感情のままにメルヴィンがテーブルを叩きつけるとユージンは素直に謝った。 「悪意のある他国からそういう使われ方をしただけで、元々、ユキは我々に好意的だったのだろう?それで『祟り』は?」」 アレクシにたずねると王家の直系特有の紫水晶から翡翠色へと色を変えるの瞳が真っ直ぐ見つめ返してきた。 「まだです。しかし、いつ祟りが起きてもおかしくないのです。ユキ様は元来お優しい。毎朝、記憶を失った状態で目覚めても笑顔をお見せになりました。毎夜、酷く蹂躙されようと決してこの国を祟ったり呪ったりなさらなかった!それどころかいつもこの国の人々に迷惑をかけたとお気にかけていらっしゃったのです!!そんな方を祟りに穢になどさせてはいけない。そんな事、ユキ様は望んでいない……陛下……父上……ユキを……ユキ様を救ってください。……ユキ様はもう、ご自分のお名前もわからなって数日経ち今や心まで子供の様に白くなられてしまった」 「今ならまだきっとユキ様の御心を留められる筈です!」 メルヴィンに向かいひざまずき願い出るアレクシの後ろでアンテロもまた額を床に付ける勢いで願い出た。
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