異界図書館

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 Xが降り立ったのは、見渡す限りに巨大な本棚が立ち並ぶ空間だった。  この「巨大」というのは、本棚もさることながら、収められている本そのものも巨大であるということだ。本の一つ一つがXの身長ほどの大きさを持ち、目に入る範囲の背表紙には私も知らない文字――と思われる、いくつもの線の重なり合いが描かれている。  この空間に窓はなく、遥か遠い天井から吊り下げられたいくつもの灯りによって、床に本棚の影が複雑に重なり合っている。  腕を失った右の袖を揺らしながら、Xは足元に落ちている本に視線を落とす。それもまたXの体と同じくらいのサイズの本であり、何も書かれていない真っ白なページを開いている。  まるで小人になったようだ、とXの視界をディスプレイ越しに眺めながら思う。もしくは、ここは巨人の図書館なのだろうか。  そんなことを考えていると、本棚の間から突然何かがXの前に飛び出してきた。緑色の肌をした、Xよりも遥かに背の低い何者かが、ぎょろりとした目玉をこちらに向けて、耳元まで裂けた口を開く。 「おや、お客とは珍しい」  こちらにもわかる言葉でそう告げた不可思議な生き物は、足元の本とXとを見比べながら言った。 「閲覧は自由だけど、お静かにね。迷惑にならないようにしてくれればいいよ」
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