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Xは答えない。今の現象をどう解釈していいものか悩んでいるのだろう。ただ、私には何となくわかりつつあった。
きっと、これは『異界』を記した本なのだろう。この『異界』に存在する本の一つ一つが別の『異界』のありさまを綴っていて、それを再現することができる。もしくは『異界』そのものに繋がっている、のかもしれない。
しかし、だとすれば今もなおXの足元に落ちている、最初からそこにあった本は――。
「それじゃあ、こっちの本も片付けていいかな」
緑色の生き物が『雨の降り止まぬ土地』の本を本棚に収めながら、視線を向けるのはXの足元の本だ。Xは少しだけ黙ってその白いページを見つめていたが、やがて首を横に振った。
「いえ。……もう、帰ろうと思いますので」
「そうかい。気が向いたらまたおいで」
「はい、ありがとうございました」
雨を滴らせながらXは緑色の生き物に一礼して、足元の本に向かい合う。そこにぼんやりと浮かび上がるのは、まさしくこの研究室の風景であって――。
「引き上げてください」
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