62人が本棚に入れています
本棚に追加
「ほう、志摩であったか。御切形ノ間、御小座敷御上段ノ間の掃除は万全であるか? 由喜子亡き後、手を抜いておらぬな?」
「ええ、これはもう」
「よし、新しい御台所が決まった記念だ。お朱咲、共に寝るぞ」
いきなりのことに瑠璃は困惑し驚いた。しかし、ここで首を横に振り拒否することは許されない。瑠璃は一歩後ずさり、三指をつき、頭を垂れて蹲う。
「謹んで、お受け致します。優しくしてくださいませ」
「うむ、良い返事だ。上臈御年寄はじめ御年寄よ、御小座敷御下段ノ間の監視役は外すのだ」
上臈御年寄と御年寄は「えっ」と驚いた顔を見せた。上臈御年寄は申し訳なさそうに口を開いた。
「畏れ多くも上様。妾共女中の御褥の監視は」
将軍の口調が穏やかながらに怒り混じりの低いものとなった。
「何を言うておる。正室である御台所と寝るのにこのような無粋をするつもりであるか? 御添寝役も外すのだ。皆、今日の夜はゆるりとするがよい」
「畏れ多くも……」
「余の言うことが聞けぬのか? そこで『ならぬ』と顔に書いてある泰明院も黙っておれ。よいな?」
「……」
泰明院は苦虫を噛み潰したような顔をしながら将軍の顔をじっと睨みつけていた。
こうして、大奥かるた大会は幕を閉じるのであった……
最初のコメントを投稿しよう!