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瑠璃は御小姓に案内され、御台所の寝室である御休息へと導かれた。御休息では長局の自分の部屋に置かれた家財道具一式が移されていた。
まるで、初めからこの結果が決まっていたかのような手際の良さであった。
数刻後、瑠璃の元に訪問者が現れた。御中臈の富士子である。
「失礼致します。本日より御台所様の身の回りのお世話を担当させて頂きます、御中臈筆頭の富士子で御座います」
昨日までの尊敬する先輩がいきなり世話係になってしまった。やりにくいなぁと思いながら瑠璃は就任の挨拶を行った。
「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。私、本日より御台所を拝命し、就任致しました長谷朱咲子で御座います。これからも御中臈の富士子様には……」
富士子は首を振った。
「これからは『お富士』か『富士子』もしくは『御中臈筆頭』とお呼び下さいませ。もう、朱咲子様の方が御立場は上なのですから、これまでのように『様』と呼ばれる関係ではございません」
本当に面倒臭い関係になってしまった。これからは富士子に何から何までを傅えられることになるのは本当にやりにくい。後で説明されると思うが御不浄の世話までされるのは極めて恥ずかしい。自分一人で出来ることはなるべく拒否を示そうと瑠璃は硬く心に誓った。
「これから何をするの?」
「上様は政で大老・老中各位と天守閣へ、夕暮れ前まで吉原遊廓の復興工事の視察を。それが終わり次第大奥にお越しになります」
成程、夕暮れ前まで自由時間と言うことか。瑠璃は膝をぽんと叩いた。
「富士子様? お遊びの方は? そうね、双六や将棋などは?」
「将棋は故郷にいた時に父より仕込まれました」
「奇遇ね。あたしもよ、お互いに故郷や好きな男子の話でもしながら一局指しましょう」
二人は将棋を指しながら世間話に興ずる、瑠璃は富士子の話を聞く度に「似た者同士」だと言うことに気がつく。譜代と外様と違いはあれど娘に雅な教育を施されてきたこと、女だてらに男のすなるような体を動かす遊びが好きで「やんちゃ姫」として城の家臣を困らせてきたこと、違ったのは大奥に行く理由ぐらいだろう。
「あら、お父様に半ば無理矢理…… これはお辛うございます」
「父は外様の出で、周りの譜代から小馬鹿にされる目で見られていて、それを見返すために娘の私を大奥に」
「これはこれは」
「地元、と言いましても隣の藩なのですが…… その藩主をずっと想うていたのです。越前の国に伝わる八百比丘尼の齢を止めたとされる人魚の肉、それを食ろうたと噂されるぐらいに外見が若々しく、十五、六の少年を思わせる程でおりまして。女だてらに守護ってあげたくなるのです。どうも、逞しい男子というものは苦手で御座いまして」
「上様などは」
富士子は苦笑いをした。瑠璃はその苦笑いを見て「好みではない」と一目で見抜いた。
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