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「ああ、陰間茶屋に入ったばかりの男子などが好きと言うことで?」
「そう…… で、御座います。上様は勿論、他の女中には内緒にしておいて下さいませ。童男子を好いていると噂をされようものなら、もう大奥の廊下を歩けませぬ」
「ふふふ、吉原遊廓の再建が終わった暁には一緒に陰間茶屋にでも行きましょうか」
「誰かに知られれば不義密通として大奥を追放されてしまいます!」
瑠璃は満面の笑みで微笑んだ。
「バレなければいいのよ。墓参りの帰りに寄るとか、御切手書の袖の下とか、色々と抜け道はあるものよ」
それを聞いた富士子は慌てて襖を開けて誰かが来ないかの確認をする。それから天井を心配そうに眺める。
「どうしたの?」
「いえ、聞かれたら二人とも大奥追放になるようなことを平然と言うなと思いまして。入った初日に泰明院様を殴ったり…… 失礼な話、無茶苦茶な御方だと思いまして」
「ありがとう。褒め言の葉よ」
「出会いが大奥じゃなかったら、きっといい盟友になれていたと思います」
「あたしもそう思う」
今までの会話は将棋の対局をしながらのものである。遊戯びながらの世間話は口が軽くなるもの。二人はこの時間を心から楽しいと考えていた。ただ、瑠璃はそれに罪悪感を覚えていた。瑠璃からの話はあくまで朱咲子としての嘘八百のもの、真実の、朱鷺瑠璃としての自分のことを話すことは許されない。瑠璃は対局も終局が近いと気付き、完全に打ち解けてきただろうと考え、先程から気になっていたことを切り出すのであった。
「かるた大会の最後で泰明院様と揉めていたみたいだけど…… えっと…… 優秀な女中を追いやることになったって……」
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