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真実はこうだ。
僕は、数日前に誘拐されていた。共働きの両親が出張で一週間ほど家を空けている間に、買い物に行ったところをあの女性に浚われたののである。そして、彼女の家に連れ込まれ、あそこが“自分の家で、自分の母親”であるように催眠術で信じ込まされていたのだった。
僕は長年あそこで“シングルマザーの母親と二人暮らしだった”と思い込まされたまま、何事もなかったかのように普通に学校に通っていたのである。誘拐犯の家は、僕の通っていた小学校の同学区内にあったためだ。
僕が誤って自分に催眠術をかけようとした結果、僕にかかっていた催眠術が解けて全てを思い出したのである。
警察に捕まった女は、僕を連れて引っ越しの準備をしていたそうだ。そして、取り調べ担当者の前でこう言ったという。
『あと少しだったのに』
高校生になった僕は今、本物のお父さんお母さんと暮らしている。
もう二度と、催眠術なんてものはごめんだ。あの時は救われたが、それでも――真実を知ってしまうのが、必ずしも幸福なこととは限らないのだから。
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