おかあさん。

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 その当時僕が通っていた学校では、あるテレビ番組が大流行していた。催眠術師エックスという人が司会を務める番組で、その人の凄い催眠術にかかったゲストたちが、突然大嫌いなものを食べられるようになったり、全然できなかった側転ができるようになったり、あるいは滅茶苦茶字が上手くなったりするのである。今から思うと、催眠術にしては効果が絶大すぎるし、半分以上ヤラセだったのでは?なんてことも思うのだが――当時幼かった僕達は、そんなテレビ番組を信じてに大熱狂していたのだ。  エックスのことを、僕達は本物の魔法使いのように尊敬していた。  振り子のようなものを相手の顔の前で振りながら呪文を唱えるだけで、あんな風に人を思い通りにできるなんてすごい!誰もがそう言って彼を賞賛していたのである。 「催眠術使えたらさー、相手に何させてみたい?」  学校で友達がそう話すと、みんなは口々に自分の願望を言い出した。 「俺俺俺!アネキに宿題やらせる!計算ドリルなんかすぐ終わるでしょ何グズグズしてんのーとかいつも馬鹿にしてくるから!そういうアネキがやってみればいいじゃんって言いてー!」 「確かに宿題やらせてみたいよなー。うちのかーちゃんも煩くて!」 「だったら宿題やらせるの、家族より先生が良くない?先生なら答えわかってんだから、マジそっこーで終わるだろ」 「そりゃ言えてるー」 「俺そんなことより、母さんに催眠術かけて絶対味噌汁にネギ入れないように頼みたい……毎朝ゴーモンすぎる」 「お前望みがちっさいなあ!どうせなら毎朝好きなもの作ってくれるようにお願いすりゃいいのに!」 「どっちもどっちだろそれ」 「それもいいけど俺はさー……」  そんなかんじである。所詮、小学三年生男子のお願いごとなんかその程度だ。あとは精々、ゲーム買って欲しいだの、勉強しないで遊んでいても怒られないようにしたいだの、自分専用のパソコンが欲しいだのなんだの。子供がお願いしたいようなことは、ひとしきり話題に上がっていたように思われる。  そんな話をしていた時、ふと僕は気になったことがあって尋ねてみたのだ。 「思ったんだけどさ、催眠術って自分にかけられないの?だって、思い込みとかさせられるんだろ?」  人に催眠術をかけるのも面白そうだが。自分にかけて、苦手を克服する方が僕にとっては重要であるように思われたのである。何故なら。
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