おかあさん。

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 ***  そんな僕は、シングルマザーのお母さんと二人だけで暮らしている子供だった。  近所でも評判の美人なお母さんは、僕にとってもちょっとした自慢である。料理も上手い。お母さんが作ってくれる料理で一番好きなのはギョーザだ。休日には、二人で一緒にギョーザを作ることもあるくらいである。キッチンに並んで、お肉をこねて皮につめるのがとても楽しかったのをよく覚えている。 「お母さん、今日もギョーザ美味しいー!」 「良かった!」  二人だけの夕食。それを寂しいと思ったことはなかった。僕が料理を褒めるとお母さんも喜んでくれる。僕も美味しいご飯が食べられて嬉しい。僕が学校でみんなと話したことやテレビ番組について話題を振ると、お母さんはいつもニコニコしながら聴いてくれた。毎日工場で仕事をして疲れているはずだというのにだ。僕はそんなお母さんが大好きだった。特に、お母さんはあんまり宿題に関してもガミガミ言わなかったから尚更である。  数少ない不満は、お小遣いが少なかったこと。  いくら小学生とはいえ、一カ月に四百円は厳しすぎるというものである。ちょっとジュースとお菓子を買ったらもうなくなってしまう。僕は一年生の頃から何度も増額を希望してきたのに、一度も聞き入れては貰えていなかった。今から思うと、そもそも毎日夕方まで工場で仕事をして、夜にはコンビニのバイトに出かけていくようなお母さんである。相当金銭的に苦しくて、僕のお小遣いを増やすどころではなかったのだろう。  まあ、そんなこと、まだ小学生の僕に理解できたはずもない。いや、聡明な小学生なら理解できたのかもしれないが、“もっとお金欲しいしお年玉も自由にさせてほしい!”な僕には土台無理な話であったのである。お小遣いを増やして貰うためにはどうすればいいのか?そこで僕が考えたのは、お母さんのお手伝いをしてお金を貰うなんて可愛いやり方ではなく、要するにあの催眠術を利用してやろうということであったのである。  つまり、お母さんに催眠術をかけて、お小遣いを増額してもらおうとしたのだ。 ――ふふーん!絶対成功させてやるんだもんね!
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