おかあさん。

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 胡散臭い催眠術師の言う“エックス流催眠術”は、簡単なものならばWEBサイトにも載っていたし番組にも紹介されていた。僕にはエックスのような“魔法のコイン”なんてものはないから、洗濯紐に五円玉を通して振り子を作って代用したのである。この時点でもう成功する確率なんかほぼほぼないだろう、と冷静に考えればわかりそうなものなのだけれど。  相手にお願いを聴いてもらう催眠術のやり方は、こうだった。 ――お母さん騙して術かけさせてもらえるとしても、チャンスは一回だろうし。絶対一回で成功させられるよう、練習しないと!  まず、エックスいわく“魔法のコインと魔法の紐”を用意する――は今回五円玉と洗濯紐で代用したからいいとして。それを手の中に丸めて握り、相手の目の前で十字を切るように動かすのだそうだ。  それを三回繰り返す。 「こ、これでいいのかな?」  鏡の前で手を動かして、動きをチェックする僕。 「それで次は……えっと、呪文か。“お願いがあります、お願いがあります。とても大事なお願いです。よーく聴いてください。僕の言葉は絶対です。よーく聴いてください”……あれ、これでいいんだっけ?」  ちなみに。後で確かめたところによると、この時僕は呪文を間違えて覚えていた。この時、術をかける相手の名前を言わなければいけないのに、それをすっかり忘れていたのである。  当然、この時の僕はそんなこと気が付かずに、うまくできていると信じて練習を続行したわけだが。 「えっと、えっとそれで……手の中から振り子を出すんだったよな?」  僕はぎゅっと握った拳を開いて五円玉と洗濯紐で作った振り子を取り出し、鏡をじっと見つめてゆらゆらと揺らし始めた。  確か、この振り子をじっと相手に見つめさせながら、最後の呪文をかければ終わりであったはずである。 「“この振り子を見てください。よーく見てください。これは神様の振り子です。……僕はあなたに望みます、僕はもっとお小遣いが欲しいです。一カ月千円にしてください。お願いします。僕の望みを叶えてください”……はいっ!」  最後にパン!と手を叩いて終了。これでリハーサルは終わりだ。少々もたついてしまったが、今の通りにやればお母さんにもしっかり催眠術をかけることができる、はずである。多分。
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