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【一】
繁華街のはずれで焼死体が見つかった。
人けのない高架下の道路沿い、雑草のはびこる空地の一角に異臭を放つ物体があるとの通報があったのは、雨の降る早朝のことだった。
それが人間の死体だと判明し、知らせを受けた刑事の絹田は現場の情況を見に行った。
地面に横たわる死体は二つ。表皮は焼け焦げて黒ずみ、相貌はおろか年齢も性別も判然としない。
周囲の草木や地面にも焼けた痕がありありと見て取れた。焼死体がここに遺棄されたのではなく、この場所で火を点け燃やされたのだろう。
雨が降り始めたのはいつだったかと考えながら、絹田は黒焦げの死体をじっと見つめる。
二人が整然と仰向けに並んでいる様を見ると、「火葬」という印象を覚えた。
事故のはずはない。何者かがこの二人を明確な意思を以て燃やしたのだ。
おまけに――と、絹田は地面にかがみこんで遺体をまじまじと眺める。焼けているだけではない。二人とも四肢や胴体、顔の肉が明らかに失われていた。一部は骨までが露出している。
よほどの火力で焼かれたのか、あるいは野良犬に噛み千切られでもしたのか、もしくは――火を点ける前に全身を切りつけられたということか。
――猟奇殺人。
絹田の脳裏にはその言葉が不穏な予感とともに浮かんでいた。
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