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重量オーバーであるのなら悪いのは明乃であることは明白だ。 窮屈で薄暗い中、あまりのバツの悪さに心の中で泣きたい思いだった。
「うわー。 マジかよ」
「このままだと会社に遅れるんだけど」
「誰? 最後に駆け込んで乗ってきた奴」
「きっとその人のせいだよね」
周りの声に明乃は更に縮こまった。 謝りたいが、怖くて言葉が出なかった。 困っているとすぐ近くの誰かが声を上げた。
「止めないか!」
その大きな声に周りは口を閉ざす。
「今こんな状況で犯人捜しをしても意味なんかないだろう。 それに彼女はたまたま最後に乗ったというだけ。
重量オーバーを知らせるアナウンスはドアが閉まってからだったんだから、どうしようもなかったと思う。 貴方たちも会社に遅刻しそうになったら、彼女と同じことをしていただろう。
そんな彼女を責めることができるのか?」
明らかに明乃を庇ってくれた言葉だった。 現状身体を反転する気にはなれないため相手を確認できないが、非常に感謝していた。
「・・・あの。 ありがとうございます」
「当然のことをしただけですから」
それはとても優しい口調だった。
―――あれ、聞いたことのある声のような・・・?
しばらく待っているうちに電源が復旧したのか明かりがついた。 視界が鮮明になるだけで周りからは安堵が伝わってくる。 チャンスだと思い改めて助けてくれた人を見た。
「と、智光くん・・・!」
「あれ? 明乃さんだったんだ」
「私の名前を憶えてくれていたの!?」
「そりゃあよくすれ違うし、よく見るからね」
名前と顔を憶えていてくれたことが嬉しかった。
「本当にありがとう。 庇ってくれて」
「そこまで感謝されることはしていないよ。 明乃さんは優しくていい人だね」
―――智光くんだったんだ・・・。
―――まさかこんな時間に会えるとは思わなかった!
―――寝坊してよかったぁ。
喜んでいると内線が繋がり、受話器の向こうから声が聞こえた。
『申し訳ありません。 ただいま復旧作業中をしております。 北側改札における故障と共に、エレベーターにも影響が出ておりました。 緊急避難の準備を進めておりますので、もう少々お待ちください』
通話が終わると同時に再び明かりが暗くなった。
―――よかった、これでもう安心だ。
そう思っていると再び周りから声が聞こえてきた。
「会社に遅れるの確定かよ」
「遅れるから上司に連絡をしておかないとなぁ」
「故障と重量オーバーのダブルパンチでこんなことなってんのか」
わざと明乃に聞こえるよう言っていると思えた。
―――私よりも、故障が原因なんじゃないかと思うけど・・・。
ただ明乃が悪くないとは言い切れず、気まずくしていると再度智光が声を上げた。
「愚痴愚痴と五月蝿い大人たちだな」
耳元で聞こえたため智光の声なのだろう。 先程とはまるでちがう低い声に少しビクリとする。
「智光、くん・・・?」
暗闇の中智光の方へ顔を向けると突然肩を抱かれた。
「ッ・・・」
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