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第十四話 決意
うなぎのかば焼きを出したら泣いて喜んでいた。相変わらず、物と、水を運ぶ毎日だが、ホースや、配管いろんなものをつなげて、何とか、もう少しで到達しそうだ。
そしてオンさんや彼のお父さんのおかげで、この島に立ち寄る人が増えて来た。
ここへきて三カ月、山下さんの腕が解放。小川さんも足引きずっていたのが今は気にならないほどだという。
「やせたー」
「筋力つけないとな、リハビリだな」
私は、レジの横にドアをつけ、外から来る人はここから出入りしてもらうようにした。
チェーンソーでバリバリ板を切っていくのは壮観だった。大分小川さんに手伝ってもらった、彼はこういうのが好きなようだ。
ドアは、落ちてきたビルから持ってきたもの、和風の引き戸だが頑丈で、もしもスフが来ても大丈夫。
今日は金曜日、お店を開放、週一回だけのオープンの日なのだ。
相変わらず海側の大きな窓越しにスフに乗った人が覗いていく。
頭を下げると、照れくさそう。
「嬢ちゃん、これは何だ?」
「カバンです、こうやって背負うんです、ここが開いて中に物をいれるんです」
「ほう」
「あの子が背負っているのはこれ、可愛いでしょ?」
「子供の土産にいいな、これは俺には窮屈だ」
「ここをこうすれば伸びるんです、だいぶ大きいですよ」
彼はリュックを背負った。トモカちゃんの背中にはプリキュアのデイバック。
鏡、これで見て下さいというとだいぶ気に入られたようだ。
姿見の大きなものも珍しいのか、たまにほしいという人がいるがこれはだめだな。
化粧品は奥さんに買うのだと、結構好評。
それと物々交換も。
「野菜、ありがとう」
「いくらだ?」
「五千」
「じゃあ水をくれ」
「はい」
「後、あのしゅわーッとした酒をくれ、きつい方」
缶をもっていくと、こっちと指さした、これはハイボールです。
「一本ですか?」
「三本くれ」
「はい」
そして裏口の方は。
「先生どうでしょう」
女性が不安そうに子供を見ている。その体には大きく色の変わった皮膚が広がっている。
「森に入ったか?」
「わからなくて」
「虫か、漆か、何せなんかに触ったのには変わりがないな、風呂は入ったか?」
「いえ、怖くて」
「着替えはあるかい?」
はい、持ってきました。
「体全部見たいから、お湯を浴びせましょう、お母さん着替えもってついてきてください」
シャワー室へ。
「先生、これは?」
「お湯が出るんです、大丈夫ですから、私が洗いますから、お母さんは持っていてください」
シャーとお湯が出た。
「少ししみるけど我慢してな」
綺麗なタオルで体を拭くと、油を塗り始めた。
「べたべたするけど一週間ぬり続けて。皮がはがれてピンク色の新しい肌になってくる。全部はがれるまで根気強く塗り続けて、できますか?」
母親はこくんと頷いた。
「安心して必ず綺麗になるから、飲み薬は夜寝る前に飲んでください、後で出しますから。今日だけだからな、かゆいの我慢しろよ」
「うん」
あまりにもかゆくてかきたくなったら叩いてください、今晩は頑張ってかきむしらないように。
「先生、お代は」
「薬代ぐらいかな、五百でいい、その代わり隣で買い物していってくれ」
「そんなのでいいんですか?」
「いいよ、ちゃんと食べて寝させてください」
「ありがとうございます」と母親は深く頭を下げた。
「お大事に、つぎのかた?」
「先生、腰が痛くてかなわねえんだ」
「ここに寝てください」
この黒いベッドも、ビルの中から持ってきた、重宝してます。
そして、これください。
子供がお金と商品を差し出した。
「三つだね、二十ドルンだよ、袋に入れるかい?」
うんと言う子供から受け取った飴とチョコレートを、小さな紙袋に入れた。これは私が雑誌を切り取って作ったものだ。
「はい」
ありがとうという。
「わたしも」
「はい、ありがとうね」
「ねえ、これどうしたの?」
座る山下さんの足をコンコンと叩いてみる子供たち。
なんと、石膏の代わりに使ったのはスフの糞。
先生が見つけた、匂いが最初はあったけど乾くときにならなくなった。まあ、そこにはいいものがあるもので、ファブリーズを振りかけたのだ。
子供たちが買ったのは、飴玉やチョコレート、袋から出してばら売り、好きなもの三個で二十にしたんだ。これは包み紙なんかに入っていないもの、カラフルなトングでつかむのもお楽しみ。
子供にせがまれてくる客が増えるといいな。
「これな、骨がポキンて折れてるんだ」
「骨?」
「骨って何?」
みんな、腕をぎゅってしてごらん、これが骨だ、と触って説明している。
「これが折れたのか?」
「そうだ、それでつながった、見てもう平気」
「すごい」
「先生に直してもらったのか?」
「うん、すごいだろ」
「すごい、じいちゃん治るかな?」
「んー、みんな直せないからなー、ただ痛いのは少しは楽にはなるみたいだよ」
「ふーん」
山下さんもレジの中にいすを置いて接客中です。
一方、前島さんは外にいます。
「これでいいですか?」
「おう、あとはたっぷり水をやってくれ」
小さな畑を作りました。
「はい、これは?」
「これはまだ早い、一タルラ(一か月)したらこのまま植えてくれ」
「この大きいままですか?」
「そうだ、そうすれば子供がいっぱいできる」
「野菜はありがたいです」
「そうか、じゃあ中で買い物するか」
「魚いいのが入ってますよ」
「おう」
レジにあった、中華まんの機械は今この国のパン、パオによく似たものが入ってます。
蒸しパンのもと、小麦粉なんかは集めたもので、友かちゃんと作った。これが結構出来が良くて。それに、これを挟んで食べる。
「はい、お待たせしました、ガンモサンドです」
小川さんがカウンターの中を改造、今や居酒屋さんのようにいろんなものが置かれてる。
「うひょー、うまそう、はい、二百」
がんもを塩コショウ、ガーリックでカリカリに焼いたものに、食べれる草を挟んでいます、それにマヨネーズが合うんです。この草は、ちゃんとこっちの人も食べているもので、ハコベやヨモギと似ているそうで、何でも春の七草と似ているなと山下さんは言います。これは私とともかちゃんで摘んできました。がんもはそのままじゃ結構臭いんです、だからニンニクやコショウで味付けをするんだそうです、これはがんもやさんがしていた味に近いそうです、よかった。
「飲み物は?」
「コーヒーがいい」
コポコポとマグカップに入れたコーヒーの香りが広がる、外には座るところがあって、カップは海水に入れてくれればいい。セット売りというところだ。
がんもをさばくのは心もとないので、人に頼んでいる。この島に一番近いところに住んでいる家族がそれを請け負ってくれている。
お父さんが、ちょっと人と付き合うのが苦手な人で、家族十人で、細々と暮らしていたのだが、息子さんが釣り針で怪我をした時、先生が見てあげたのがきっかけで、手伝ってもらっているんだ。
低いぼそぼそした声で言う。
「こっちが肉、百匹分。こっちが骨だ、これ、内臓」
「ありがとう、これがえさ代、これがお肉のさばきちんです」
「おう」
「あ、ちょっと待ってください、これ、奥さんに、おすそわけです」
「すまない」
「またよろしくお願いします」
首をこくんと動かし帰られた。
肉を冷蔵庫に入れた、内臓は後で入れ物に入れて凍らせる、骨は、外で豪快に焼く。案外骨はいろいろ使えるからな。
カップを取りに外へ出た。駐車場ならぬ、駐スフ場、大きな鳥がいっぱい止まっています。大人も子供も乗れますが、たまに落ちます。落ちる様です。
それとえさをいっぱい食べるので、持っている人はお金持ちのようです。必要に駆られて持っている人もいます、漁師が多いかな?
後は北からくるお客さんが増えました、頼まれたものを大量に勝っていかれます。
日が暮れてきます、皆さんお帰りになります。
みんながぐったりです。
それからは、週一回、金曜日に開けるマーケットは、ありがたいかな、徐々に人が増え、大勢の人が来てくれるようになりました。
縁起のいい日と悪い日があるようで、週末がいい日、中間の水曜日にかけて悪くなるのか、何事も週末にいろんなことをするようなので、ここは金曜日に開けます、それでも、先生のところ年中無休かな患者も少ないしいいかもね。
「電気けします!」
明かりを消した。
島の中だけでも広い、車がほしいよね。
「バイクでもいいな」
「ガソリン車より太陽エネルギーですかね」
「パネルほしい」
欲望は数限りなくってな。
「ははは、今は頑張って稼ぐしかないな」
王様に聞きに行く。まあ、そこまでしなくてもという意見もあったけど。
今うちにはスフが二ひきいます。
お母さんのジェシカと息子のスバルです。
スバル君の方が物覚えはいいです、お母さんの方はワンテンポ遅れて覚えますが、中がいいので、重宝しています。
お母さんは、女子と山下さん以外乗れません。スバルは誰でも乗せてくれます。
何せ力持ちで、今じゃ、下に気球の下にあるような箱をつけ、私たちを乗せてくれるまでになりました。
ある日の朝。
ゴゴゴゴゴゴ!
「地震だ!」
「でかいぞ!」
「外に出ろ!」
あの日の事を思い出し、みんなでしがみ付き合った。
ドドドと地響きのような音とド――――ンン!!という音に、耳をふさぐ。
「何か落ちたな」
「絶対落ちた」
みんなの顔が妙に楽しそうで。
「煙!」
「まずい、統太行くぞ!」
「え、エー、雪乃ちゃん看板、クローズの看板出して!」
「山下さんは後で消火器持ってきて!先に行きます!ともか、カバン持って乗れ!」
バサッバサッと羽ばたいて空に飛び立った。
「火の元‼電源切って!」
「は、はい!鍵!」
「忘れ物は?」
はい、カバン!と山下さんに投げた。
「ジェシカ、行こうか、雪乃ちゃんいいかい!」
「はい、カバン、オッケーです!」
山下さんの後ろにまたがり腰に手を回した。
「ジェシカ、アップ!」
バサッ、バサッと羽が羽ばたき、私たちは大空へと飛びだしました。
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