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三十一 平行時空間の移動
「ねっ!聡だって心配でしょう?」
ルルはじっと俺の目を見ている。
「今度、独りでトイレへ行く。いつまでも気にしてたら、今後、独りで大学へも行けない。出歩けないよ」
俺は行動する上で、自立しなければいけないと思った。いつまでもルルの手をわずらわせていたら、独りで何もしなくなり、できなくなってしまう。
祖母にクツシタを履かせてもらっていた祖父のようになってしまう。
祖父母はあれで、結構の二人の世界を大事にしていたのかも知れないが、端から見れば、家族にいろいろ七面倒臭い説教をたれる祖父が、クツシタのことになると祖母任せなのだからあきれたもんだ、と思った時があった。
俺も、ルルに説教めいたものを話している。祖父母の関係が俺とルルの関係に表れたのかと一瞬なりとも思ってしまう。
「独りでトイレへ行ってもいいよ。だけど、ドアは開けておいてね!」
「ここや家ではそうできるけど、外では無理だぞ。シッコはともかく、ウンチはドアをあけっぱなしには・・・」
ルルが俺の胸から顔を上げてにらんだ。まるでカエルを狙う鎌首をもたげた大蛇のごとく、ルルの顔がぐっと起き上がって俺を見ている。
「あっ!はいっ!できます・・・。はい、できます・・・」
俺は思わずルルの気配に圧倒されて、気持はカエルになっていた。
「よしよし。それでいい。
スリスリとパンパンしてやるからね。うれしいだろう?」
アッ、わかった。いつだったか、女だって性欲があるんだよと話したルルを思いだした。
ルルは俺の事をもっと詳しく知る機会だと思って楽しんでいるんだ・・・。
「楽しんでなんかいないよ。純粋にトイレ経由で聡が別の世界へ行って、そこで別なあたしと生活するように思えてならないの・・・」
「その話、どこで知った?」
「聡が話してくれたよ・・・」
俺を狙っていたルルの目が優しくなった。
以前、俺はルルに平行宇宙論の話をした。そのときついでに、 時空間転移(平行時空間の移動)を話したことがあった・・・。
『平行時空間(平行宇宙)に存在する人物の意識が入れ代った場合、その人物はどう行動すべきだろう?
A1の時空間にいたa1の意識が、同じバージョンの、A2の時空間のa2の意識と入れ代った場合だ。
平行時空間A2の住人a2は、平行時空間A1の住人a1の意識が、A2の住人a2の意識と入れ代ったなんて気づかないはずだ。だからa1の意識はA1の体験を記憶したまま、A2の新たなa2の意識として人生を生きるべきだ。
二つの平行時空間だけに特異現象が生じ、他の平行時空間に異変がないなんてことはありえないから、全ての平行時空間で同様な現象が生ずる。
a1の意識が時空間A1から時空間A2へ、a1の意識の同バージョンのa2の意識がA2からA3へ、同様に、a3の意識がA3からA4へ、a4の意識がA4からA5へと、ドミノ倒しのように、平行時空間から平行時空間へ転移が進むにつれ、現象変化が緩慢になり、転移にともなう時空間の変化は0へ収束し、各時空間の同バージョンであるそれぞれの時空間転移意識aの変化も0へ収束する。
今、意識だけが転移した場合を想定したが、身体ごと転移した、時空間転移体の場合も同様な事が想定できる・・・』
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