キラキラ

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 砂の城。  薫る潮風。  真上の太陽。  足元の冷たい感覚。  弾いた波の。  キラキラ。 「何年振りかしら? お城なんて作るのは」 「俺は小学生以来だな」  他愛のない会話を繰り返した。  いつまでも。  いつまでも。 「もっと、大きくするの!」  何処までも。  何処までも。  いつまでも――。 「あ…ッ!」  さくらが急に手を止め海を見る。 「キラキラ!」 「キラキラ?」  彗斗とはるかも揃って海に眼をやった。  ――!  …うん。  これだったのか、さくらが言っていたのは。  眼前に広がったキラキラ。  それは海が太陽に照らされたときの、光の結晶だった。 「きれい…」 「あぁ…」  この景色は――。  知っていた。  いつかみた景色。  時間が積み重なっていく上で。  この綺麗な景色を忘れていた。  美しいものを美しいと言える感情を。  好きな人にその想いを伝える感情を。  好きな人にその想いを伝える感情を――。 「言ってたの…」 「ん?」 「『お母さんはもうすぐ死んじゃうけど、さくらの側を離れることはない』って…」 「さくらちゃん?」  時が経つ毎にキラキラが強くなる。  もっと、強く。  もっと、強く。 「『朝は太陽になって、夜は星になって、さくらをキラキラと輝かせてあげる』って…」 「さくらちゃん…」  もっと、照らせ。  もっと、照らせ。 「だから、このキラキラはお母さんなの! さくらをずっと見守ってくれるの」  好きな人にその想いを伝える感情を――。 「なぁ、はるか…」 「んー…」 「あの、え、と…そのー…」 「何?」 「えー…っと…あ! なぁ、さくら! お母さんにメッセージボトル流そうぜ!」 「あ、ちょっと、彗斗! さっきのは何なのよ?!」  言って、恥ずかしさから逃げるようにラムネを買いに行った。  今はまだ…。  夫婦でいよう。  三人の時間を大切にしよう。 「めっせーじぼとるぅ?」 「あ…あ、うん。メッセージボトルっていうのはね、ビンに手紙を入れて海に流すの」 「――! お母さんに手紙を送るの!?」 「まぁ、そうなるかな」  しばらくしてラムネみっつを手に持った彗斗が戻ってきた。 「よし! 二人とも飲め!」 「てか、空ビン貰ってきなさいよね!」  ――ゴクン。  あらゆる不安も飲み込んだ。
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