ビタースイート

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ビタースイート

 時刻はあと五分で明日になる。 「今日って何の日か知ってる?」  隣の女の子が話しかけてきた。 「んー…………………分かんない」 「んとー、えとねー、バレン」「シアだね! スペイン東部の都市で果実の栽培・絹織物業が有名なんだよ………………たぶん」  お願いだから僕に××××××デーの話なんかしないで欲しい。僻みでも遠吠えでもない、気持ち悪いんだ。甘ったるい感覚が。 「あっれ、 顔色悪いよ。病気かな?」 「あー……恋の病ってやつだよ」「私に?!」「……たぶん」「いえす!」ふぉーりんらぶとでも言って欲しいのかなー…なんて考えた。 「二月十四日は病気に犯されている。ロッ○や○永に踊らされて、恋が『残念でしたー』って溶けていくんだよ。きっとね」 「ふーん。君は恋と一緒に心まで溶けちゃったんじゃないのー?」 「なのかもね。それでもいいけど」……少し、ほろ苦い。 「はい、これ……あげる」  女の子がポケットから小包を取り出した。 「義理チョコ?」「偽装チョコ!」 「今、巷で話題の?」なってない。 「本命なんだけど『本命じゃないよ』って偽装してるんだよ!」 「あー……それ、本人の前で言っちゃダメだと思うなー……」 「今日は××××××デーだから」  僕は嫌いだよ。愛の告白だとか、甘い営みだとか、幸せな顔だとか。どうせそこら中のお店でチョコレートが余るだけなのに。 「僕はチョコなんか欲しくない」 「チョコじゃないよ」「……へ?」「偽装だから」「じゃあ、これは?」 「ぼたもち……的な?」 的な? ってなんだよ! 「でも、それなら食べれるな」 「うぃっす!」  してやったりの顔をする。  ふぁいんぷれーだね? 今ならふぉーりんらぶと言ってもいいよ。  二月十四日は過ぎたけど……。
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