サンタクロース・ガール

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サンタクロース・ガール

「ずっとシカだと思ってた」  友達が私に言った。十二月二十五日。十二回目のクリスマス。  寒さで目が覚めて、カーテンを開けると窓にびっしり霜が付いている。それを左手で綺麗に拭いて外を見ると、世界は真っ白に包まれていた。友達でも誘って雪だるまでも作ろうかな? と思っていたら、すでに友達がいるのが窓の外に見えた。しかも涙目で……。 「サンタさんが乗ってるソリを引っ張るのはシカだと思ってたの」 「……うん」  とりあえず友達を家の中に入れてコーンスープを出した。 「別にそれがシカでもトナカイでもどっちでもいいわけよ」 「……うん」私もどっちでもいい。 「でもなんか裏切られた気持ちになるじゃない!」 「……うん」正直、どうでもいい。 「そもそもシカとトナカイって何がどう違うの? 私は奈良に生息してるのがシカ。それ以外に生息してるのがトナカイだと思ってたの。ましてやトナカイは赤い鼻だと聞いていたから、絵を観て『これは普通の鼻をしてるからシカなんだなー』と思ったのに!」  全部……、全部サンタさんのせいだ。声になるかならないかくらの小声で彼女は呟く。勝手にベッドの上でうなだれる彼女は独り言のように事の成り行きを話し始めた。 『今年のクリスマスには動物図鑑が欲しい』とサンタさんにお願いした彼女は、朝、枕元に置いてあった動物図鑑を見つけた。彼女は喜んでパラパラとページを捲ったら、トナカイの項目が開いたそうで。そこには『サンタクロースのソリを引く動物としての認知度がもっとも高い。また、サンタクロースのソリを引いて空を飛ぶとされる理由としては、トナカイの角はその形状から揚力を得られ、なおかつ跳躍力が極めて強いためという説がある』……と。 「そこで知ったの。ソリを引くのはシカではなくトナカイだって」 「それは……災難だったね」特に私が。 「私がサンタさんなら子供の夢を壊すことは絶対にしない!」  そう決意した彼女は、しばらくの興奮のあと、真剣な顔をして何やら考え込んだ。そして……、 「私決めた!」 「……何を?」 「将来はサンタクロースになる!」 「あー……そう」ご勝手にどうぞ……と、そう言葉を続けられない優しい私こそ、子供に夢とプレゼントを与えるサンタクロースに相応しいと思う。意気込む彼女を横目に私はそっと溜め息を吐いた。
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