流星トランク

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「願叶術魔法……使い?」 「えぇ。実はある方から依頼がきましてね」 「ある人って、だ――」カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン。次の電車が近付いて、…………え? 「誕生日おめでとう!」  その声は、その人は、線路を挟んだ向こう側に、あなたはいた。 「俺はもういないけど、たとえお前の隣に俺が居なくても、絶対に生きて、幸せになれよ」  嘘、なんで? だって、あなたは――  あなたは一年前と変わらず、いや、出会った時から変わらない、優しい、優しい笑顔で、私の目の前に現れた。  ダムの放水のように流れ出ようとする涙を、必死に塞き止めようとしているのに、喜怒哀楽の哀だけ壊れたように涙が止まらなかった。止めたくなかった。それに、あなたに言われなくても、  私は、私は―― 「あったり前よ! アンタより何倍も生きて、何倍も幸せになる!」  生きて、生きて、生きて生きて生きて、あなたの事をずっと覚えてあげなきゃ。あなたの事をずっと伝えてあげなきゃ。それが残された者の役目だから、それが託された私の役割だから。 「そっか」  安心した。  そう言ってあなたは、  ふわり、ふわり、  消えるように空気へ融けた。      3 「彼女が……、俺の死んだ場所で一年後に死んじゃうんです」  一人の少年が私の元を訪ねてきた。どのような方法で私を見つけたのかは知らないけど、相当苦労したことには間違いなかった。少年は最後の希望に縋るような眼をしていたからだ。 「どうしてあなたがそれを知っているんです?」 「それは、ある人から教えられて……」 「教えられて? 誰にですか?」  一瞬、彼の表情が曇る。どうやら触れてはいけない事のようだった。別段、取り立てて聞くような事ではないので、話を続ける。 「それで、あなたはどうしたいんですか?」 「お願いです……彼女には……生きてほしい」  ……。……。……。 「解りました。ただし、誰かのための願い事は、願われる側もそれを望まないと私達は叶える事ができません」 「そんな……」 「彼女を信じてあげてください」 「信じる?」 「えぇ。彼女が生きたいと願っているという事を、です」      #     #  彼女は、彼の気持ちを知れたからなのか、彼女の本音を伝えられたからなのか、身体の力が抜け、そのまましゃがみ込んだ。 「彼女は生きてみようと思ったんですね」 「あ?」 「いや、じゃないと私は、彼女を助ける事が出来ませんでしたから」 「なーに当たり前の事言ってんだよ。それが条件だろ」 「そういう事じゃなくて、……まぁ、いいです」  なんだそれ。と、苦笑交じりにトランクが笑う。  さて、 「トランク」「おう」  私とトランクがこうして誰かの願いを叶え続けていたら、私は元の世界に戻れるのだろうか? トランクは元の姿に戻れるのだろうか? それはまだ解らない。しかし、確証はないけど、可能性はある。可能性があるなら、試す価値はある。だから、私達は今日も、   「誰かの願い、叶えに行きましょう」
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