キラキラ

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 AM八時ジャスト。  日曜日だってのに。  つか、夏休みだってのに。  なんだ、この展開は。  ははーん。  夢か。  頬をギューっと、引っ張れば…。 「パパ、ラムネおかわり!」  ――夢じゃない!  ラムネビンみっつ。  スイカもみっつ。 「さくら、そのパパってのは何なんだ?」 「んとね、えーっとね。おとーさんが――」 「――ちょっと待った。こっからはお父さんが話す」  割って、往斗が真剣な顔をする。 「実はな、彗斗。お兄様は今日から一週間の出張をすることになった」  なにがお兄様だ。このバカアニキ。 「その間、さくらの世話を誰かに任せたいんだが…実家が一番安心だろ?」 「え、アニキ出張すんの?」 「おう。んで、母さんと父さんは?」  しまった――。 「あ、その、えっとー…出張…」 「え?」 「一週間帰って来ないんだよ」  彗斗は気まずそうに外を見る。 「だから、他の人に頼んでくんねぇかな? 俺一人じゃ、さくらの面倒看れないし…」  往斗も仕方ないと言わんばかりの顔で、諦めようとした。  ――が、その刹那。 「ぜーーーっ……たい! ヤダっ!!」  ――!  さくら?  往斗の言葉を遮ったのは他の誰でもない、さくらだった。  今まで水槽の中の金魚に夢中だったさくらが、泣き出しそうな顔をしていた。 「さ、さくら?!」 「さくらは…パパと暮らすんだもん!」 「あ!」  ――パタパタ。  ――こてん。  ――あぅ。  派手にコケた。  ――とてとて。  ――バタン。  彗斗の部屋へと逃げ込んだ。 「ちょ! さくら!」 「待て、彗斗!」  さくらを追いかけようとした彗斗を呼び止める。 「んだよ! 何で止めんだよ!」 「おまえ、去年の夏休み、さくらと何か約束したか?」 「へ?」  急に何を言い出すんだ、アニキは。 「出張の話をした時に、さくらの方から言い出したんだ。パパの家が良いってな」 「だから、そのパパってのは何なんだ?」  テーブルに戻り、自分自身を落ち着かせる。 「実家から帰ってきた後、彗斗の話をする度に、おまえのことをパパって言うんだよ」  さくらが?  俺のことを?  ――あ。  まさか。  あの事を。 「アニキ」 「ん?」 「ちょっと、さくらんとこ行ってくる」 「…あぁ」  弟に任せれば大丈夫。  そんなことを思いながら兄はラムネを一口飲んだ。
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