キラキラ

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「さくらー。入るぞー」  …。  ……。  ………。  声が返ってこない。  拗ねているのか?  ガチャ。 「さくらー?」  ――!  すー。  すー。  むにゃ。  ベットで寝てる。  そりゃもう、ぐっすりと。  瞼を真っ赤に腫らしていたので、疲れ果てるまで泣きじゃくったんだなと分かった。  さくらに寄り添うように、ベットに腰を掛ける。  ――ぽすん。  鮮やかに。  思い出す。      #         #  ――一年前。  とある夏の日。  天河往斗とその家族は、夏休みを利用して毎年実家へ遊びに来ている。  今年の夏休みは、てんまの葬式もあり、彗斗は帰省しないと思っていた。  しかし、さくらの気分転換にと、今年もやってきたのだ。 「おーい! 帰ってきたぞー!」 「かえってきたぞー!」  さくらが父親の真似をする。  思ったより元気そうだ。 「けいとちゃん、遊ぼ!」  けいとちゃん――と、呼ばれるのは違和感があったが、次第に普通になっていた。  往斗は両親と今後の事を話している。  その重々しい空気に、彗斗とさくらの立ち入る隙はなかった。 「んで、何する?」  ラムネビンをふたつ持ちながら、彗斗の部屋へ向かう。 「んとね、えーっとね。宇宙人ごっこ!」 「宇宙人ごっこぉ?!」  この娘は何を言い出すんだ。  と、部屋へ入るなり、いきなり。 「うん。こーやってね、扇風機に顔を近付けて…」  ――わ~れ~わ~れ~は~う~ちゅ~う~じ~ん~だ~~!  ビクぅ!  ――ぶわぁ~ばばばばばばぁ~。  いつの時代の子供もやるんだな。  最後の奇声はよく分からないが…。 「けいとちゃんも早く!」 「え!?」  俺もやるのか。  あれを。 「けいとちゃんもやるの!!」  怒っても可愛いな。  あいつに良く似て――透き通るような黒でとても長い髪だ。  よし、やるか! 「せーの!――」  ――わ~れ~わ~れ~は~う~ちゅ~う~じ~ん~だ~~! 「なにやってんの?」  ビクぅ!  突然、後方から聞きなれた声が響く。  女の子なのに少年っぽい声。  透き通るような黒でとても長い髪。 「よ、よう! はる…か」  逢瀬はるか 十七歳。  高校二年生。 「はるかお姉ちゃんだ!」 「お、さくらちゃん。久しぶり!」  さくらがウチに来るたびにこいつもやってくる。  ヒマ人だ。  あと、お隣さん。  つまり幼なじみ。  つか、なんではるかにはお姉ちゃんなんだよ。 「よく、来てるって分かったな。ストーカーか?」  言って、長い付き合いのノリでからかう。 「ちっがうわよ! さっき、さくらちゃん達が入って行くのが窓から見えたの!」 「んだよ。そんな本気になんなくったっていいだろ!」  その様子をじっと眺めていたさくらが呟く。 「こーゆーのって、『ふーふげんか』って言うんだよね!」 「――え?」  そりゃもう、これでもかッ! と、いうぐらい息の合ったタイミングで。 「えと、えーっと…さくらちゃん? どこでそんな言葉覚えてきたの? と、ととと、とゆーかぁ…ふ、ふーふじゃな、な、にゃ――」 「お、おち、お、落ち着けはるか! べつに、ふ、ふーふじゃ、な、あ――」  二人とも声が上擦っていて、最後の方は何を言ってるんだか分からない。  彗斗は動揺のあまり、半分も残っているラムネビンをベッドの上に倒してしまった。  さくらはそれをずーっと屈託のない笑顔で見ている。 「ねぇ、ちょっと! 早くタオル!」 「お、おう!」  ――しゅわ。  ラムネが弾いた。  回る羽の音。  三人の声。  垂れ落ちる水分。  染み込む透明。  キラキラ。
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