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手紙のチカラ。強い言葉だ。電話がすっと切れる。
倫太郎さんの明るい声で、私の心は華やいでくる。なんだかとても、浮き浮きとした気分になってきた。
そういえば、手紙の最後のほうをまだ読んでいなかった。私はテーブルの上の便せんを取り、もう一度読み直す。
“追伸、僕はかなり太っているので、会ったら幻滅するかもしれません。でも僕は、自分が太っていることを気にしていません。デブのサラリーマンなんて、たくさんいます。だけど、字のきれいなサラリーマンは、意外と少ないですよ。僕の一人勝ちですね”
倫太郎さん、デブなのか。
私は急に、自分が太っていることが、どうでもいいことのような気がした。
「デブで悪いか」
呟いて、ふふっと笑う。倫太郎さん、いい人だ。急に彼がすぐそばに来たみたいだ。
スマホが鳴る。倫太郎さんからの電話。私は微笑んで手に取る。自慢の美声を思い切り聞かせてあげよう。
字がきれいで声もきれいな女はたくさんいるけれど、一人勝ちではないかもしれないけれど、考えてみたら美穂はこの世に一人だけ。
一人だけしかいない私は、もちろん、一人勝ちよね。
「倫太郎さん、おかえりなさい! お疲れ様!」
<完>
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