文通

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 私は文通が好きだ。便せんに万年筆で字を書いて、封筒に入れて、切手を貼ってポストに出す。こんなクラシックなやり取りが、なんだか好きなのだ。  文通の相手はSNSで探している。これはクラシックなやりかたではないけれど、今どきこんな方法しかない。今、頻繁に手紙を送りあっている相手は、Instagramで出会った男性だ。  男性であって住所もわかっている。でも他のことはあまり知らない。ひとり者で家族はいないみたい。ということは、まだ若いのかもしれない。字がきれいで、とても読みやすい。だから彼のことが好きだ。  私はきれいな字を書く人が好きで、男でも女でも字のきれいな人とは文通が長続きする。この人は今までで一番好き。なぜだか、とても、ひどく、惹かれる。顔を見たこともないのに、なんだか恋をしているような気がする。 “美穂(みほ)さん、お元気ですか。今日、仕事の帰り道にハンズへ行きました。美穂さんが好きそうなシールがあったので、プレゼントしようと買ってきました。気に入ってくださるとうれしいのですが”  美しいバラのシールが何枚か同封されている。もちろん私の趣味に合っている。もう一年以上も手紙をやり取りしているので、お互いの趣味もわかっている。 “美穂さんが好きなコスモスの花を写真に撮りました。デジタル一眼を買ったので、がんばって撮ってみたのですが、なかなかうまく撮れません。笑ってお納めください”  謙遜したことを書いてあるが、とても上手に撮影できていると思う。器用な人なのだろうなと、羨ましく感じている。 “明日は結構大変なプレゼンがあるので、少し緊張しています。さっさと眠って早起きしなければ。この手紙を美穂さんが読む頃は、僕もほっとしてだらけているでしょう”
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