大食いサラマンダー

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大食いサラマンダー

「やっぱり、光魔法も火魔法も使えないな。特殊な環境みたいだ」 試行錯誤していた魔道士は、諦めてその場に座り込んだ。真っ暗でよく見えないが石などもなく座り心地は悪くない。 「魔法がダメなら、物理的に火を起こすしかないか」 そう呟くと剣士は火打石とランタンを取り出した。手元も見えないような暗さだが、持ち物も少ないのでこれであっているだろう。 「なあ、真っ暗で何も見えないし暇だろ。僕の話を聞いてよ」 魔道士は呑気な声で剣士に話しかけた。 2人は鯨のように大きくオオサンショウウオのような見た目の通称「大食いサラマンダー」の討伐依頼を遂行中のパーティである。幼馴染の2人は仲もよく気安い関係であるが、うんちくの多い魔道士の話を剣士が聞き流すことが多くあった。 そこで、この真っ暗闇でどうしようもない間なら、剣士が自分の話を聞いてくれるのではないかと魔道士は思ったのだ。 「そんなこと言ってる場合かよ。まあ、どうしようもないからいいけどさ」 お互いの姿すら見えないような闇に不安を覚えつつ、剣士が答えた。 「大食いサラマンダーの話だよ!討伐で敵の情報は重要だろ?」 魔道士は嬉々として話を始めた。 大食いサラマンダーは通称であり、正式名称はとても長いこと。とても希少な生物であまり情報が出回っていないこと。雑食でなんでも食べてしまい、冬眠前のちょうど今の時期には農村の作物や森の恵みを食べ尽くしてしまうことがあること。火魔法に強く、ほとんど効かないこと。意外にも水魔法にも強く、光魔法に弱いこと。弱点は両脇の下の鱗の切れ目であり、それ以外は硬くて対魔法にも強い鱗に覆われていること。大きな音に驚くと、近くにあるもの全てを吸い込んでしまうこ性質があること。ピンチになると火を吹くと言われているが、実際にはほとんど火は吹かないこと。火を吹くために魔力で火を起こす火袋は喉の奥にあり、平常時は空洞になっていること。喉の奥は胃と火袋の二手に分かれてること。ここからは噂だが、胃液は強力で、金属でも溶かすと言われていること。火袋の中は全ての光を吸収すると言われていること。 剣士は魔道士がすらすらと話す知識に感心して、なるほどな、と溢すと、火打石を打つ手を止めた。 「すごい知識だけど、もっと早く話せよ」 「話そうとしたけど、聞いてくれなかったじゃないか。でも分かったろ?僕が光魔法で目眩しして、君が脇の下を剣で刺せば討伐できそうだ。僕の知識があってよかったね」 魔道士は得意げにフフンと鼻を鳴らした。 「そうだな、お前のいう通りだ。今回の討伐は楽勝だな」 剣士は肯定し、一呼吸おいて続けた。 「ここが、大食いサラマンダーの火袋の中じゃなければな。なぜお前はそこまで知ってて大声で驚いたんだ?」 「いや、だって突然出てきたから、ついさ。まあ、胃に入らなくてよかったじゃん」
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