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第1話 転移
まぶしい光に包まれている。
目を開けると何もない白い空間だった。
俺は死んだのか?
俺は佐藤 慎吾28歳。
会社の健康診断で左肺に影が見つかり、病院に行き検査をすると癌と診断される。
癌年齢としては若く進行が早くて手が付けられず、ステージ3、余命3ヵ月。
癌年齢としては若く、あっという間に癌が体に回り病室で意識をなくしたはずだ。
やり直せるものなら、やり直したい。
もう一度、そう切実に願った。
「あ~もしもし、回想は終わりましたか?」
突然、声が頭に響き周りを見渡すと、辺りは白い靄のようなものに包まれている。
よく見ると緑の長い髪をポニーテールに束ねた、スレンダーなメガネ女子が目の前にいた。
「ここはどこでしょうか?」
「私の名は女神ゼクシー。異世界『エニワン』を管理しているものです。そしてここはわかりやすく言えば、現世とあの世の狭間です」
「俺は死んだのですね」
「はい。佐藤 慎吾さん、あなたはお亡くなりになりました」
右手の指でメガネをふちを少し上げ、そうメガネ女子は言った。
「そうですか、死んだのですか。で、これから俺はどうなるのでしょう?」
「はい、生前の行いが悪いため、あなたは俗にいう地獄行きです。来る日も来る日も死ぬような攻めを受けながら、これから輪廻転生するまで苦しむのです」
「死んだのに死ぬような苦しみ、てどんな罰ゲームなんでしょう…」
「罰ですから…と、そんなあなたに朗報です!今なら『エニワン』へ転移できます」
話を聞くと地球と似たような異世界が他にもあり、そこに転移できるらしい。
文明は地球よりかなり遅れており、剣と魔法の世界で中世ヨーロッパ時代程度。
魔獣や魔物がおり人の命が軽いとのこと。
あぁ、最近アニメでやってる異世界転移か、時々見たことがあったな。
「で、俺が行くその目的は?」
「文明が低迷してもう千年近く進んでいません!だから新しい風が欲しいのです。特に世界を変えるような大きなことは期待していないわ。あなたが転移し生活することで、周りに何かの刺激を与えてくれればいいのです。常識や世界観がわからないだろうから、困らないように予備知識やスキルを1つ与えますね。逆に何も周りに影響を与えられないくらいの力なら、多分生活も成り立たないと思うけど。それに一人の力で、世界が変わる訳でもないから気負わなくていいからね」
「他にも転移者はいますか?」
「今の時代に他の転生、転移者はいません」
「そうですか、ならせっかく転生するなら新しい名前が欲しいです。生まれ変わりたいんだ。そうだ女神様に名前を付けてもらえませんか」
「え、私にですか?」
今まで転移者を送ってきたが、こんなことはなく戸惑う女神ゼクシーだった。
「えぇ、ぜひお願いします」
「分かりました」
ゼクシーはしばらく考えていたようだったが
「あなたの名前はエリアス。エリアス・ドラード・セルベルトでどうでしょう?」
「それでいい。ありがとうございます。名前を付けてもらえるなんて、俺とあなたは親子みたいな関係ですね!」
「え!どういうことでしよう?」
「名前を付けてもらった。俺には母親が居る、そう思いただそれだけを心の拠り所にして、生きていきますから」
えっ、そんなことで、そこまで思ってくれるなんて。
ゼクシーが女神になってから数万年。
後輩の寿退職を尻目に、一人寂しく婚活に励んだ。
相談所に入会してみたものの、高い月謝だけ毎月取られ良縁には未だ恵まれず。
いったい、私の何がいけないの?(泣)
自問自答の日々…、結婚だけが人生か…。あぁ、また一人、そしてまた一人と…。
「それと出来ればメンタルと性格面を変えてください」
「どんなことでしょうか、言ってみて」
「まず沈着冷静で物事の先読みが出来る、人から好かれるようにしてほしい。一人で生きていく以上、メンタルや性格も大事ですから」
「わかりました。年齢はどうしますか?自由に設定できますよ」
「成人は何歳からですか?」
「15歳です、でもまだ体は未成熟。養えない家庭が多いから成人扱いにして家から出すことも多くて」
「そうですか、では17歳で。それから精神年齢も17歳にしてください」
「17歳ね。後はお金と、いきなり死なれても困るから、ステータスは全体的に高めと。生活魔法(火・水・氷・風・光)を使えるようにしておくわね」
「ありがとうございます。それと、転移3点セットもお願いできますか」
「転移3点セット?」
「はい転移・転生の定番と言えば、鑑定・異世界言語・ストレージです。後はカスタマイズ可能にしてください」
「わかりました。ほら、これでどう?ではそろそろ、名残惜しいけど『エニワン』に送るわね。私に会いたくなったら教会に行ってお祈りすれば会えることもあるわ」
「ちょっと待ってください、まだスキルを頂いてませんが?」
「転移3点セットでいいのよね…」
「転移3点セットは定番なので、最初から持っているスキル扱いでしょう?」
「そ、そうですか。具体的にはどんなスキルがほしいでしょうか?」
「面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きて行きたい!」
「はい??」
「だから面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくことができるスキルです」
「具体的にはどうしてほしいの?」
「息子が健やかに暮らせるように、考えるのが親でしょう」
「あァ…、やっぱりこんな奴だったのね。もういいわ、では良い旅を…」
こんな茶番に付き合ってられないわ。今日は合コンなのよ、合コン。
こうして俺は鑑定・異世界言語・ストレージのみのスキルで、女神に投げやりに新しい世界に放り込まれた。
* * * * *
あ~、やっと行ったわ。
どうも転生とか転移者は疲れるわ。
でも仕方がないか?
徳の高い人はすぐ、天界へ昇天してしまうし。
ここの狭間へ来るのは、ろくな人ではないからね。
でも転移した時に心を洗うから、生まれ変わってくれると良いんだけどね。
ふぅ~。
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